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投稿日:2025.10.07  最終更新日:2025.9.29
戦略・計画

CSR・SDGs情報発信で企業価値を高めるWeb活用

CSR・SDGs情報発信で企業価値を高めるWeb活用

CSR・SDGs 情報発信の重要性と最新動向

社会課題の解決に向けた企業の姿勢は、投資家や取引先だけでなく、採用候補者や消費者の購買行動にも影響を与える時代になりました。とくに食品メーカーや建設業、福祉法人は「安全・安心」「持続可能な街づくり」「地域福祉への貢献」といったテーマで評価されやすく、Web での情報公開が企業価値の証明書として機能します。

2024 年に改訂された金融庁のコーポレートガバナンス・コードでは、サステナビリティ情報の開示が上場企業に事実上義務づけられました。さらに 2025 年度からは有価証券報告書の「サステナビリティ開示欄」が拡充される予定で、非上場企業にも取引先や金融機関を通じて情報開示圧力が波及しています。このような制度的背景は、Web サイトを使ったステークホルダーへの透明性確保を後押ししています。

一方で「PDF をそのまま貼っただけ」「ニュースリリースの転載のみ」という状態では、検索エンジンに評価されず、閲覧者も深く読み込めません。Web 発信のベストプラクティスを把握しないまま公開すると、せっかくの社会貢献が埋もれてしまうリスクがあります。

下表は 2025 年時点で注目を集める CSR・SDGs 情報発信のトレンドを整理したものです。

トレンド概要期待される効果
統合報告書の Web 化PDF 依存から Web ページ化へ移行し、検索性・可読性を高める投資家の閲覧時間向上、SEO 流入増
リアルタイム KPI 公開CO₂ 排出量やリサイクル率をダッシュボード表示企業の誠実さを可視化し、信頼獲得
動画・インタラクティブ社員インタビューや現場映像を組み込み、体験的理解を促進ソーシャルシェア拡大、採用力向上
アクセシビリティ対応WCAG2.2 準拠で高齢者・障がい者も閲覧しやすく福祉法人のブランド向上、潜在顧客の裾野拡大
自治体データとの連携SDGs 未来都市やゼロカーボンシティの指標を API で取得行政との協働アピール、補助金採択率アップ

これらの潮流を踏まえ、まずは「誰に」「何を」「どうやって」伝えるかを整理することがスタートラインです。

1. ステークホルダーマッピング

経営層、投資家、消費者、求職者、行政・業界団体の 5 グループに分け、それぞれが関心を寄せる情報を抽出します。たとえば投資家は定量データと第三者認証を重視し、求職者は理念と社員の声を重視する傾向があります。食品メーカーの場合、消費者はアレルゲン情報や地産地消の取り組みに敏感で、建設業では行政が安全管理体制と環境配慮を重視します。

2. マテリアリティの特定

国際的な GRI や SASB のフレームワークを参照し、自社の影響度と社会的期待値が高いテーマを優先的に採択します。食品メーカーであれば「食品ロス」、建設業なら「資材循環」、福祉法人は「地域共生」が代表例です。これらを 3〜5 項目に絞り、KGI と KPI を紐づけることで経営判断と情報発信を連動させやすくなります。

3. ペルソナとコンテンツジャーニー

ステークホルダーをさらに具体化し、年齢・職種・情報感度などを想定してストーリーを設計します。例として求職者ペルソナ「25 歳・食品科学科卒・サステナビリティ志向」を設定し、初回接点は SNS、詳細確認は CSR ページ、応募は採用サイトという三段構えの導線を描きます。同様に投資家向けはニュースアラート→統合報告書 Web 版→決算説明会アーカイブという流れが王道です。

よくある失敗パターン

  • ガイドラインに沿わない独自指標を羅列し、第三者と比較できず信頼性が低下
  • 専門用語を多用し、一般読者が理解できないまま離脱
  • 更新フローを属人化し、担当者異動と同時にサイトが放置される
  • PDF のみ更新し Web ページを放置、検索順位が下がり流入が減少
  • 画像に埋め込んだテキストを alt 属性で補完せずアクセシビリティ違反

これらを避けるためにも、発信前に「社内体制・フロー設計→コンテンツ設計→UI/UX 設計→KPI 設計→運用開始→改善」という工程管理が不可欠です。

成功事例に学ぶ食品メーカーの社会貢献 PR

国内大手 A 社は、食品ロス削減プロジェクトを「見える化」する特設サイトを開設しました。特徴は次の 3 点です。

  1. データの毎日更新
    工場別の廃棄削減量をリアルタイムで表示し、前年同日比を自動計算。数字が動くことでユーザーの再訪率が 28% 向上しました。
  2. レシピ提案と連携
    余剰食材を使ったレシピをカテゴリ別に紹介し、ブランドサイトとクロスリンク。滞在時間は平均 5.6 分に伸び、関連商品の購買率が 12% 上昇。
  3. 地域パートナーシップの可視化
    NPO や学校との共同イベントをマップ上に掲載。ユーザーは自宅近くの活動を検索し、ボランティア参加が月平均 400 人超に。

これらの施策に共通するポイントは「双方向性」と「定量+ストーリー」の組み合わせです。数値で実績を示しつつ、現場の声や写真で共感を呼び、検索エンジンにも評価される構成となっています。

成果指標の整理と考察

下表は A 社が設定した主な KPI と 1 年目の実績です。

KPI目標値実績値達成率
特設サイト月間訪問数100,000 PV118,500 PV118%
平均滞在時間4 分5.6 分140%
再訪率20%28%140%
関連商品購買率8%12%150%
ボランティア参加人数300 人/月405 人/月135%

A 社は「見える化→共感→行動」の流れを Web 上で完結させ、社会貢献を経営成果に結び付けています。このプロセスは業界を問わず応用可能ですが、成功の鍵は運用フェーズでデータを継続的に更新できる体制づくりにあります。

実装のコツ

  • CMS のカスタムフィールドで数値を一元管理し、担当部署が更新しやすい設計にする
  • GA4 と Search Console を用いて流入キーワードとユーザー行動を週次で確認
  • トップページから 3 クリック以内で CSR・SDGs コンテンツへ到達できる導線を確保
  • モバイルファーストを徹底し、指標カードは横スクロール式で表示崩れを防止
  • 進捗グラフは SVG 形式で描画し、ダークモードでも視認性を保つ

以上が食品メーカーにおける代表的成功パターンです。次章では建設業が SDGs レポートページを立ち上げる際の手順を解説します。

建設業が SDGs レポートページを立ち上げる手順

建設業は環境負荷が大きい業界と見なされる一方で、街づくりやインフラ整備を通じて持続可能性に直接貢献できる立場にあります。SDGs レポートページを成功させるには、まず事業プロセスを「資材調達」「施工」「維持管理」の 3 フェーズに分解し、それぞれで達成すべき目標と指標を設定することが肝要です。

1  資材調達フェーズ

  • 認証材の採用比率
    国産材や FSC 認証などの環境配慮型資材を数値化し、前年比較を掲載します。
  • サプライヤー評価
    労働安全や人権方針をチェックリスト化し、スコアを年次で公開すると取引先にも好影響を与えます。

2  施工フェーズ

  • 省エネ施工法の採用率
    断熱材の高性能化やプレキャスト工法導入など、CO₂ 排出削減に寄与する技術を写真とともに紹介します。
  • 現場安全データ
    労働災害発生件数を月次でグラフ化し、対策内容を添えると信頼性が上がります。

3  維持管理フェーズ

  • ライフサイクル CO₂
    竣工後 30 年間での排出量をシミュレーションし、従来工法との差を可視化します。
  • 地域貢献プログラム
    完成後の清掃活動や防災訓練への協力など、地域と共生する取り組みをストーリーで掲載します。

下表は、ある中堅ゼネコン B 社が策定した SDGs レポートページ制作フローの概要です。

フェーズ主担当期間成果物
企画経営企画部2 週KPI 設計書、ワイヤーフレーム
データ収集各事業所4 週定量データシート、写真素材
デザイン広報+制作会社3 週UI カンプ、アクセシビリティチェック
実装情報システム部2 週CMS テンプレート、API 連携
公開・告知広報1 週プレスリリース、SNS 投稿
運用各部門継続月次更新レポート

このフローを標準化した結果、B 社は初回公開までのリードタイムを従来の 4 か月から 3 か月弱に短縮し、更新コストも 30% 削減しました。

実装時の UX ポイント

  • タブ構造の活用:資材調達・施工・維持管理をタブで切り替えられる UI にし、ユーザーが関心領域を素早く閲覧可能にする。
  • マイクロインタラクション:スクロールに合わせて数値がカウントアップする演出を入れ、関心を維持。
  • レスポンシブグラフ:モバイル幅で折り返さず読めるチャートライブラリ(例:Chart.js)を選定。

コンバージョン設計

建設業の場合、問い合わせや資料請求よりも「自治体案件の指名競争参加」や「民間開発からの RFP 受領」が目標になることが多いです。そのためページ末尾に 事例ダウンロード ボタンを置くのではなく、「プロジェクト実績一覧」への導線を目立たせ、ポートフォリオ全体で実績を裏付ける構成が効果的です。

福祉法人の採用ブランディング強化策

福祉業界は慢性的な人材不足に悩まされ、給与や勤務条件だけでなく 社会的意義 を訴求して応募者を惹きつける必要があります。採用サイトで SDGs を語るときは、抽象的な理念より 具体的な利用者ストーリー を中心に据えるのが鍵です。

1  ビジョンの言語化と定量化

  • 法人理念を「地域で最後まで暮らせる仕組みを作る」など短いセンテンスにし、指標(自立支援率 80% 超) を添えます。
  • パンフレットの焼き直しではなく、求職者が即イメージできるよう事例と数値をセットで示します。

2  スタッフ体験の可視化

  • 1 日密着動画:新人介護士の 24 時間に密着し、具体的な業務内容と利用者との関わりを映像化。
  • クロスセル Q&A:医療系・障がい者支援系など複数部門のスタッフが互いの質問に答える座談会を記事化。

3  キャリアパスと研修制度の透明化

厚生労働省が推進する「キャリア段位制度」に対応し、レベルごとの研修内容と昇給モデルを明示します。具体例を表にまとめると視覚的に理解しやすくなります。

キャリアレベル必須研修平均年収目安昇給タイミング
エントリー基礎介護技術、感染対策300 万円年 1 回
ミドルリーダーシップ、個別ケア計画360 万円年 1 回
シニア認知症ケア上級、施設マネジメント420 万円半期ごと
スペシャリスト研修講師育成、海外視察480 万円随時/成果連動

この表を公開した結果、ある社会福祉法人 C 会の応募率は前年比 1.7 倍、内定承諾率は 85% から 92% へ向上しました。

求職者ペルソナを意識した UX

  • チャプターリンク:属性別(新卒・中途・子育て復帰)にページ内リンクを設定し、情報を取りこぼさない。
  • スキップリンク:キーボード操作のみでも主要コンテンツにアクセスできるよう設計し、アクセシビリティを向上。
  • 心理的安心感:利用者とスタッフが握手するアイキャッチ画像をヒーローセクションに配置し、応募ハードルを下げる。

効果を最大化するコンテンツ設計と SEO 対策

1  キーワードクラスタリング

メインキーワード「CSR・SDGs 情報発信」を中心に、業界別・目的別でサブキーワードをグルーピングします。たとえば「建設業 SDGs」「福祉 採用 ブランディング」「食品ロス 取り組み 企業」などです。Search Console で獲得済みキーワードとポテンシャルキーワードを一覧化し、共起語(環境配慮、地域共生活動など)を本文に自然に散りばめます。

2  内部リンク戦略

  • 統合報告書ページ、IR 情報、採用サイト、プレスリリースを ハブ&スポーク型 でリンク。
  • Web 施策ごとに タグページ を設置し、検索ボットが巡回しやすいサイト構造を作ります。

3  E-E-A-T 向上策

  • 各ページに執筆・監修者のプロフィールを掲載(専門資格、実務年数)。
  • 第三者機関の認証ロゴや表彰歴をファーストビュー近くに配置し、信頼シグナルを強化。

4  コアウェブバイタル最適化

建設・福祉業界サイトは画像や PDF が多く、読み込み速度が遅くなりがちです。WebP 変換HTTP/3 を導入し、Largest Contentful Paint (LCP) を 2.5 秒未満に抑えます。

5  構造化データの活用

  • FAQPage:よくある質問をマークアップし、検索結果でリッチリザルトを狙う。
  • HowTo:CO₂ 削減計算方法など手順を公開する際に使用すると、クリック率が 1.2〜1.5 倍向上する傾向があります。

以上の設計を踏まえることで、CSR・SDGs コンテンツは単なる「環境報告」から、ビジネス成果を伴うマーケティング資産へと変革します。

運用体制と KPI 設計――継続的改善のポイント

CSR・SDGs ページは公開がゴールではありません。効果を持続させるには「権限」「責任」「判断基準」を文書化し、更新サイクルを仕組み化することが不可欠です。ここでは 組織横断チームの編成ダッシュボード運用 を中心に解説します。

1  RACI マトリクスで責任を明確化

企画・制作段階までは関係者が集まりやすいものの、公開後は担当が曖昧になりがちです。以下のように R(Responsible)A(Accountable)C(Consulted)I(Informed)を定義し、週次・月次の更新をルール化します。

タスクRACI
SDGs 指標入力各事業部経営企画情報システム全社員
KPI ダッシュボード更新情報システム経営企画広報役員
採用ページ事例追加広報採用責任者各事業所全社員
コンテンツ品質レビュー広報経営企画外部監査取引先

これにより「誰がボールを持つか」が一目で分かり、属人化を防げます。

2  KPI ツリーとダッシュボード

KPI は「閲覧→理解→共感→行動」の階層構造で設計します。たとえば閲覧数が目標を達成しても、共感度(滞在時間やスクロール率)が低ければ施策を見直す必要があります。BI ツールでリアルタイム共有することで、担当者が施策効果を即座に確認できるようにします。

  • 閲覧:PV、UU、検索流入比率
  • 理解:平均滞在時間、動画再生完了率
  • 共感:SNS シェア数、エンゲージメント率
  • 行動:資料ダウンロード、応募フォーム送信、問い合わせ件数

3  PDCA を回す 90 日サイクル

  1. Plan:四半期目標を決定し、施策と予算をセット
  2. Do:制作・公開・告知を実行
  3. Check:30 日目に中間指標を確認し、軌道修正
  4. Act:60 日目に改善策を追加し、90 日目に総括レポート

こうした短期サイクルを回すと、検索アルゴリズムの変動や社会情勢の変化にも柔軟に対応できます。

4  ガバナンスとリスク管理

  • 改ざん防止:CMS ロール権限を最小化し、更新履歴を残す
  • 法務チェック:環境性能の数値は根拠となる測定法を明記
  • 炎上対策:誤表現や画像流用を避け、ソーシャルモニタリングを自動化

まとめ――企業価値を高める Web 活用のロードマップ

CSR・SDGs 情報発信は 透明性・信頼・共感 の 3 点を満たせば、投資家からの評価向上だけでなく、採用・販売・行政連携の各フェーズで相乗効果を生みます。本記事で示した 食品メーカー・建設業・福祉法人 の事例と手順を踏まえ、以下のステップで自社ロードマップを策定してください。

  1. マテリアリティの特定と KPI 設計
  2. 業界・目的別ペルソナ設計とコンテンツジャーニー作成
  3. UX・アクセシビリティ・コアウェブバイタルの最適化
  4. 組織横断チームによる RACI マトリクス導入
  5. 90 日サイクルの PDCA で継続改善

この流れを回し続けることで、Web サイトは単なる報告ツールではなく、「企業価値の成長エンジン」として機能するようになります。社会貢献の成果を可視化し、ステークホルダーと共創する次の一歩を踏み出しましょう。