はじめに
中小企業において新たにWebサイトを構築したり、既存サイトのリニューアルを検討したりする際、まず頭を悩ませるのが「どの制作会社に依頼すべきか」という点です。制作会社は無数に存在し、それぞれ得意とする分野や制作スタイル、価格帯に違いがあります。さらに、制作後の運用体制や目的達成に向けたマーケティング支援など、提供できるサービス範囲も様々です。そのため、ただ単に“安い”という理由だけで選んでしまうと、思ったような成果が得られない、コミュニケーションがうまくいかないなどの問題が発生する恐れがあります。
本記事では制作会社選定基準 というテーマをもとに、費用面だけでなく、プロジェクトの目的や方向性を確立するために必要な視点、また制作会社と契約する前に確認すべき具体的な項目などについて詳しく解説します。これを読むことで、制作会社選定における重要ポイントや見落としがちな点を理解し、失敗や後悔を防ぐことができるはずです。
まずは制作会社を選ぶことの意味や、なぜ選定が重要なのか、その背景から見ていきましょう。
制作会社選定の重要性
Webサイトは企業の「顔」とも言える存在です。会社概要や提供するサービスの情報を伝えるだけでなく、見込み顧客との接点や営業のサポートツールとしても大きな役割を果たします。さらに、企業やブランドのイメージを構築し、利用者が求める情報を適切に発信していくためには、単なるデザインの良し悪しだけではなく、その後の運用や更新も視野に入れた設計が必要です。
自社の目的や目標を達成するため
制作会社を選定する主な目的は、企業が掲げるビジネス目標をWebサイトを通して達成することにあります。例えば以下のような例が考えられます。
- 新規顧客の獲得
- 自社ブランドの認知度拡大
- 既存顧客との関係強化
- 製品・サービスのオンライン販売促進
このように、ただ見栄えの良いサイトを作るだけではなく、目的を達成するための設計を行うという視点が不可欠です。制作会社を選ぶときには、この視点を共有できる相手なのかを見極めることが肝要です。
コミュニケーションと長期的パートナーシップ
Webサイト制作は短期間で完結する案件もあれば、公開後も継続的に改修や更新を行いながら育てていく場合もあります。そのため、一度サイトを公開して終わりではなく、運用フェーズに入ってからも問い合わせ対応や機能追加、デザインの更新などの作業が発生します。加えて、集客やマーケティングの戦略立案を支援する会社もあれば、更新に関するアドバイスやコンテンツ作成のサポートなど、幅広いサービスを提供している会社もあります。
このように、Web制作をきっかけにして長期間にわたり付き合いが続く可能性があるため、制作会社の選定では「長期的に協力していける体制があるか」「担当者とのコミュニケーションが取りやすいか」といった点も重要な評価基準となります。
失敗するとコストが膨らむ
制作会社の選定が失敗すると、最終的に納品されたWebサイトが目的を達成できずにリニューアルを余儀なくされたり、追加の機能実装に高額なコストがかかったり、想定以上の時間を浪費したりする可能性があります。また、運用フェーズでのサポートが不足している会社と契約した結果、社内で更新作業が回らなくなるなどのトラブルに直面することもあります。
こうした事態を避けるためには、最初の制作会社選びがいかに重要かを理解し、その上で価格だけでなく複数の要素を考慮した選定を行うことが大切です。
制作会社を選ぶ際の主な基準
では具体的に、制作会社の何を見て判断すれば良いのでしょうか。以下では、主な判断基準となる項目を紹介します。
1. 実績と専門分野
制作会社の得意分野は会社ごとに異なります。中小企業のサイト制作に強みを持つ会社、ECサイトの構築に定評がある会社、高度なシステム開発を得意とする会社、あるいはブランドデザインに特化している会社など、さまざまなタイプがあります。
- 過去の制作実績
作成したサイト例やクライアントの業種、そこでの実績が重要な確認要素になります。自社と類似の業種やビジネス領域で実績を持つ制作会社であれば、目的や課題を理解してもらいやすいでしょう。 - 専門知識・技術力
デザインの質はもちろん、コンテンツ管理システム(CMS)やプログラミング言語に関する知識、SEOやWebマーケティングの知見など、必要な分野での専門スキルを持っているかを確認します。特に、自社にプログラマーやマーケティング担当者が少ない場合には、制作会社側でそれらの役割を担ってもらえるかどうかが大きな選定ポイントとなります。
2. コミュニケーションと提案力
プロジェクト期間中は、担当者との打ち合わせが何度も発生します。さらに、仕様調整やデザイン案の確認など、細かなコミュニケーションを重ねながらプロジェクトを進行していくため、担当者の対応力や提案力も重要です。
- レスポンスの早さ
質問に対する回答が遅い、見積もりや提案書をなかなか送ってこないなど、レスポンスの悪い会社とはプロジェクトがスムーズに進行しない可能性があります。 - 要望を理解し、課題を見つける力
こちらが提示した要望や目標を整理し、課題を見抜き、必要に応じて具体的な改善策を提示してくれる会社は頼もしい存在です。「こういうデザインはいかがですか?」といった単発の提案ではなく、ビジネス全体の成果につながる視点を持っているかを見極めましょう。
3. 体制・規模感
制作会社によっては、数名の少人数チームで運営しているケースもあれば、大規模なクリエイティブエージェンシーの一部署として運営しているケースもあります。それぞれにメリット・デメリットが存在します。
- 少人数の制作会社のメリット・デメリット
メリット:コミュニケーションが取りやすく、スピード感のある対応が期待できる。
デメリット:担当者が固定されやすいので、担当者が忙しくなると対応が遅れやすい。また、幅広い専門分野に対応できない場合もある。 - 大規模な制作会社のメリット・デメリット
メリット:各分野の専門家が在籍しており、大きな案件にも対応可能。多角的なサポートを提供できる。
デメリット:連絡や承認フローが複雑で、必要な調整に時間がかかる場合がある。案件規模が小さいと優先度が下がることがある。
4. 運用・サポート体制
Webサイトの公開後、どのように運用をサポートしてくれるのかも重要です。更新作業をどこまで担当してもらえるのか、万一のトラブル発生時に迅速に対応してくれるのか、運用時の相談窓口は設けているのかなど、サイトを「育てる」フェーズも見越したサポート体制を確認しましょう。
- 保守・管理サービス
サーバー管理やセキュリティ対策、ドメインの更新などを請け負ってくれるかどうか。追加費用の有無も含め、契約前に明確にしておくと安心です。 - 更新代行・運用コンサル
自社の担当者が更新作業を行うのか、あるいは更新代行を依頼できるのか。定期的にアクセス解析やSEO対策などの提案をしてくれる会社もあります。
5. 費用面
制作会社選定ではコストは当然大きな考慮点となります。しかし、安いから良い、高いから悪いという単純な判断は危険です。後述する「価格に関する基礎知識と相場」でも詳しく触れますが、制作範囲や機能、納期などによって費用は大きく変動します。
- 見積書の内訳
どの工程にいくらかかっているのか、明確に記載があるかをチェックします。デザイン制作費、コーディング費、システム開発費、ディレクション費など、項目ごとに確認できるかどうかがポイントです。 - トータルコスト
制作費用だけではなく、納品後の運用費や保守費用、機能追加にかかる改修費用なども含めて、長期的な視点でコストを捉える必要があります。
価格に関する基礎知識と相場
制作会社の価格設定は千差万別ですが、一般的なWebサイト制作において、どのような要素が費用に影響するのかを整理しておきましょう。
1. 料金体系のパターン
料金体系には大きく分けて以下のパターンがあります。
- 固定料金型
要件をあらかじめ確定してから一括で見積もりを作成し、その金額で制作を進める方式。途中で要件が変わらないかぎり、追加費用は発生しない場合が多い。 - 工数(人件費)ベース
担当者の工数や業務時間に応じて費用が算出される方式。要件変更が多い案件や開発要素が多い場合に採用されやすい。 - 成果報酬型
一般的なWeb制作案件ではあまり多くありませんが、ECサイトの売上やお問い合わせ数など成果に応じて報酬が変動する場合もあります。
2. サイト規模や機能による目安
サイトの構成や機能によって相場は大きく変わります。あくまで目安として、以下のように捉えるケースが多いです。
- 企業サイト(ページ数が10ページ前後・基本的な問い合わせフォーム)
50万円~150万円程度
デザインの凝り具合やオリジナル要件の有無で変動します。 - ECサイト(商品数少なめの小規模)
100万円~300万円程度
決済システムの導入や在庫管理などの機能追加でさらに費用がかかる場合があります。 - 大規模サイト(数百ページ規模・多言語対応・複雑な機能)
数百万円~数千万円
要件定義やデザイン・システム要件が高度になるほどコストが跳ね上がります。
3. 見積もりのチェックポイント
- 要件定義の明確さ
見積もりを依頼する前に、サイトの目的や機能、ページ構成などをなるべく具体化しておくと正確な見積もりが得られやすくなります。 - 改修や修正の回数制限
デザインの修正回数や、納品後の軽微な修正費用などをどこまで含むかでトラブルが生じやすいので、事前に確認しましょう。 - 追加費用の発生条件
納期短縮や仕様変更など、どのような場合にどれくらいの追加費用が必要になるのかを確認しておくと安心です。
ここまでは、選定基準と価格の基本的な考え方について見てきました。続いては、実際の制作会社選定プロセスをスムーズに進めるために意識すべきポイントを具体的に解説します。
選定過程をスムーズに進めるポイント
制作会社を決定するまでには、情報収集・問い合わせ・ヒアリング・見積もり比較・最終判断といったステップを踏むことになります。これら一連の流れをスムーズに進めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
1. 目的と要件の整理
Webサイトを制作する明確な目的が定まらないまま会社選びを始めると、「どの制作会社なら最適か」を判断しにくくなります。
- 目的の明確化
新規顧客獲得、既存顧客との接点強化、ブランドイメージの向上など、サイト制作の背景やゴールをはっきりさせましょう。 - 要件の洗い出し
必要な機能、ページ数、更新頻度、デザインの方向性など、できるだけ具体的にまとめておくことで、制作会社とのやり取りがスムーズになります。
2. 適切な情報収集
インターネット上には無数の制作会社が存在します。闇雲に探すのではなく、以下の方法を組み合わせて効率的にリサーチを行いましょう。
- 自社と似た業種・業態のサイトをリサーチ
「こういうサイトを作りたい」という理想の事例を探し、そのサイトがどの会社によって制作されたのかを調べる。 - 専門サイトや制作会社のポートフォリオ
制作会社の公式サイトや制作事例集から得意な分野やデザインテイストを確認する。 - 知人や取引先の紹介
信頼できる知人・取引先がすでに制作会社と契約している場合は、評判を聞いてみるのも一つの手段です。
3. 複数社へのアプローチ
1社だけに絞ってしまうと、適正価格や提案内容を比較検討できません。時間と労力はかかりますが、最低でも2~3社、余裕があれば3~5社程度に問い合わせや見積もりを依頼するのがおすすめです。
- 初期問い合わせ時の対応感触をチェック
質問への回答スピードや、問い合わせ対応の質を確認します。この時点でレスポンスの遅い会社や対応の粗い会社は、今後のやり取りでも同様のリスクがあると考えられます。 - 要望をきちんと伝える
ざっくりとした依頼では正確な見積もりや提案を得られない可能性が高まります。目的や要件、予算感をできるだけ明確に伝えましょう。
4. 初回打ち合わせ・ヒアリングの準備
制作会社からの提案や見積もりを受ける前に、ヒアリングの場を設けることが多いです。その際に以下の項目を準備しておくと、打ち合わせがより実りあるものになります。
- 自社のビジネス概要説明資料
事業内容、商品やサービスの特徴、市場や競合の情報などをまとめておくと、制作会社が課題や強みを捉えやすくなります。 - サイトマップ(案)
サイトのページ構成を考えるための仮のサイトマップを準備しておくと、イメージを共有しやすくなります。 - 参考サイト
自社のイメージに近いサイトや、機能の参考になるサイトを用意しておくと、デザインやUI/UXについての方向性を示しやすくなります。 - 予算の上限
ぼんやりとした「安く作りたい」ではなく、おおまかな予算感を伝えることで、制作会社側も具体的な提案を行いやすくなります。
5. 連絡手段とコミュニケーションフロー
制作会社とのやり取りが頻繁に発生するため、コミュニケーションの取り方は重要です。
- 連絡手段の確保
メール、電話、オンライン会議ツールなど、必要に応じて最適な連絡手段を決めておきましょう。 - 担当者の明確化
自社側では誰が窓口となるのか、制作会社側では誰がディレクション担当になるのかをはっきりさせ、話が錯綜しないようにします。 - 定期ミーティングの設定
プロジェクトの進捗に合わせ、定期的なミーティングや進捗報告の場を設けると、後から大きな修正が必要になるリスクが軽減されます。
制作会社のタイプ別特徴
制作会社と言っても、その性質や得意分野によっていくつかのタイプに分けることができます。それぞれの特性を理解しておくと、自社に適した制作会社を絞り込みやすくなるでしょう。
1. デザイン重視の制作会社
主にビジュアルデザインやブランドイメージ構築を得意とするクリエイティブ系の会社です。
- メリット
見た目の洗練度が高く、ブランド力強化やデザイン性を前面に打ち出したい企業には向いています。 - デメリット
システム開発やマーケティング支援などは外部パートナーに任せる場合が多く、トータルコストが上がりやすい傾向があります。
2. システム開発に強い制作会社
企業独自のシステムや高度なWebアプリケーションの開発を得意とする会社です。
- メリット
大規模なシステム連携やデータベース活用など、技術的に難しい案件にも対応できます。 - デメリット
デザイン分野やブランディングに弱いケースがあるため、デザイン面を別会社に依頼しなければならないことも。
3. マーケティング支援型の制作会社
広告運用やSEO対策、コンテンツマーケティングなど、サイト集客や顧客獲得にフォーカスした制作を行う会社です。
- メリット
サイトを作っただけでなく、実際の集客や売上アップにつなげるためのアドバイスや施策を期待できます。 - デメリット
デザイン面やシステム開発よりも、マーケティング要素に強みが偏っている会社もあり、幅広いニーズに対応できないケースがあります。
4. 大手広告代理店系
広告代理店の中にWeb制作部門を持っていたり、グループ会社として制作会社を傘下に持っているケースです。
- メリット
豊富なリソースを活用して、戦略立案からクリエイティブ制作まで一貫して対応できる。 - デメリット
予算が高額になりがちで、規模の小さい案件に対応してくれない、あるいは優先度が低くなるリスクがあります。
5. フリーランスや個人事業主
1名~数名規模で活動しているフリーランスや個人事業主も選択肢に含まれることがあります。
- メリット
連絡が取りやすく、意思決定が早い。比較的リーズナブルなケースが多い。 - デメリット
その人の得意分野に依存してしまうため、同時にデザイン・開発・マーケティングを網羅的にカバーするのは難しいことがあります。また、病気や休業などで対応がストップするリスクも。
このように制作会社にはそれぞれ強みや特徴があるため、自社のニーズや予算規模、求めるサポート内容に合わせて最適なタイプを見極めることが大切です。
見積もりと提案内容の確認方法
問い合わせを行った後、制作会社から見積書や提案書が提示されることでしょう。ここでは、それらを比較する際にチェックすべきポイントを解説します。
1. 見積書の内容精査
- 項目の内訳
ディレクション、デザイン、コーディング、CMS導入、システム開発、テスト・納品、その他など、制作工程別に費用が整理されているか確認します。 - オプション費用の有無
追加で発生する機能開発費や写真撮影費、原稿作成費など、オプション要素の扱いを把握しておきましょう。 - 運用費・保守費の明示
納品後にかかる保守費、更新費用などが見積もりに含まれているか確認します。
2. 提案書の内容精査
- 目的達成に向けた戦略・プランの提示
単なるデザイン案だけでなく、「なぜこのデザインやサイト構成が適切なのか」を含めた理由や狙いが示されているかどうか。 - スケジュール感
いつまでに要件定義を終え、いつ頃デザインが完成し、いつリリースできるのかといった大まかな工程表があるか確認します。 - 実績・デモサイトの提示
過去の制作事例の中で似たような目的を達成したケースや、デモサイトの実演があれば、具体的なイメージをつかみやすくなります。
3. コミュニケーション体制・スコープの明確化
- 担当者の役割分担
デザイナー、ディレクター、エンジニアなど、担当領域が分かる形で提案書に記載があるか。 - どこからどこまでが制作範囲か
文章作成は誰が行うのか、写真やイラストの手配はどうするのか、公開後の検証や改善はどの程度関与してくれるのかなどを明確にします。 - 進捗報告や定期ミーティングの頻度
プロジェクトが始まったあと、どのタイミングで報告があり、どのくらいのペースでミーティングをするのか、具体的な合意をとっておきましょう。
失敗を防ぐための注意点
制作会社と契約した後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないために、以下のような点に注意するとリスクを最小限に抑えられます。
1. 複数社からの提案を安易に混在させない
複数の制作会社から提案を受け取ると、「A社のデザインの方が良いけど、B社が提案している機能の方が魅力的だ」という気持ちになり、結局どこが主体なのか曖昧になってしまうことがあります。提案を比較検討する段階では別々に評価し、最終決定後は基本的に依頼する1社(または明確に棲み分ける複数社)を明確にしましょう。
2. 要望や修正依頼はドキュメント化
口頭やメールだけのやり取りだと、意図しない形で情報が伝わってしまうリスクがあります。修正依頼や追加要望は、まとめたドキュメントを作成して制作会社と共有すると、トラブルを防ぎやすくなります。
3. 見積もりに含まれる範囲を明確に
制作途中や納品後に、「ここは見積もりに入っていません」「追加料金が必要です」と言われて驚くケースも少なくありません。見積書や契約書に記載されている内容をよく確認し、「どこからどこまでが含まれるのか」を明確にしておくことが大切です。
4. スケジュールに余裕を持たせる
Webサイト制作には思った以上に多くの工程と調整が伴います。コンテンツの作成や写真・イラストなどの素材準備に時間がかかることも多いため、余裕のないスケジュールを組むと、品質が落ちたり余計なストレスがかかったりする可能性があります。可能な範囲で余裕を持ったスケジュールを設定しましょう。
5. 運用フェーズの工数を見込んでおく
サイトの公開後は、更新やアクセス解析、場合によってはSNSとの連動などが必要になるため、運用にかける工数や予算も考慮しておかなければなりません。運用期間中にどのような作業が発生するかを洗い出し、自社で対応するのか、制作会社に任せるのかを決めた上で、費用を見込んでおきましょう。
【表】制作会社選定チェックリスト
ここまで解説してきた内容を、チェックリスト形式で整理してみましょう。制作会社を検討する際の参考にしてください。
チェック項目 | 確認のポイント | 確認済み |
---|---|---|
目的・要件整理 | サイトの目的(新規顧客獲得、認知度拡大など)、必要機能やページ数は明確か | |
会社の実績・得意分野 | 自社業種に類似するサイトの制作経験があるか、デザイン・マーケティングなど強みは | |
コミュニケーション体制 | 担当者のレスポンスの早さ、要望の理解度、提案力は十分か | |
体制・規模感の適合性 | 担当者が固定されすぎていないか、大規模案件にも対応可能か | |
運用・サポート体制 | 公開後の更新代行、保守・管理サービス、トラブル時のサポート体制を確認したか | |
見積もりの内訳 | ディレクション費、デザイン費、開発費などが明確か、追加費用が発生する条件は明確か | |
長期的なコスト把握 | 制作費だけでなく、運用費や改修費などトータルコストを見込んでいるか | |
スケジュールの適正 | 余裕を持ったスケジュールを組めるか、制作会社側の工期とずれはないか | |
契約・納品後のリスク管理 | 契約書や保守契約の内容、納品物の範囲を正しく理解しているか |
このチェックリストを活用し、複数の制作会社から提案を受けたときに比較検討してみると、どの会社が自社の要件を最も満たしてくれるのか、客観的に判断しやすくなるでしょう。
成功事例から学ぶ制作会社選定のポイント
ここまで制作会社選定の基準や費用面、運用体制などを中心に解説してきましたが、実際に制作会社を活用して成功している企業は、どのようなプロセスを経て依頼先を決め、どのような結果を得ているのでしょうか。ここでは、実際の事例を想定した形でまとめ、具体的なポイントを整理してみます。
1. 事例A:ブランドイメージ刷新と売上向上を同時に達成
背景
ある企業は創業から長年同じWebサイトを運用しており、デザインやコンテンツの古さが目立っていました。加えて、サイトからの問い合わせ数が伸び悩んでおり、売上にも大きく貢献していない状態でした。
制作会社選定のポイント
- デザイン力とマーケティング力の両立
デザインの刷新を強く望んでいたため、ビジュアル面に強い会社を候補としました。しかし「ただ見た目を良くするだけでは意味がない」という認識から、マーケティング知見を持つ会社も並行して検討しました。 - 過去の事例を詳細にヒアリング
似たような課題(ブランドイメージの変更+売上向上)を経験した案件を持つ会社に注目し、その企業がどのように問題を解決したかを具体的に聞くことで、自社の状況への当てはめをイメージしやすくしました。
結果 - 全体のデザインリニューアルと同時に、LP(ランディングページ)を複数制作する提案を採用。各ターゲット層に合わせた導線を用意したことで、サイトへの流入から問い合わせへのコンバージョン率が向上しました。
- ブランディング面では、企業ロゴやカラーパレットを含めた再設計により「時代に合ったイメージ」へ移行し、社内外からの評価も上々。特に若年層の顧客獲得につながりました。
2. 事例B:ECサイト構築で新たな販路を開拓
背景
中小企業の一社が、既存の卸売主体のビジネスモデルに限界を感じ、オンライン直販を検討していました。ところが自社内にEC構築の専門知識がなく、どのプラットフォームや決済システムを導入すればよいかもわからない状態でした。
制作会社選定のポイント
- システム導入・運用経験の有無
特定のECプラットフォームを扱った経験や、サーバー負荷対策、決済セキュリティなどに詳しい会社を優先的に探しました。 - 長期サポート体制の確認
「運用が始まってからが本番」というECサイトの性質上、定期的なアップデートや機能拡張、キャンペーン企画などを提案してくれる会社を重視しました。
結果 - 初期構築から半年ほどでオンライン販売を軌道に乗せ、既存顧客だけでなく新規顧客を獲得。EC売上が全体の利益に大きく寄与し始めました。
- 制作会社は、アクセス解析ツールを活用したデータ分析レポートの提供や、季節ごとの販促企画立案にも協力。結果的に同社のEC部門が社内で大きな役割を担うまで成長を遂げました。
3. 事例C:既存サイトの部分改修で成果を伸ばしたケース
背景
すでにある程度完成度の高い企業サイトを運用していたが、問い合わせフォームの設計が使いにくいと指摘を受けていました。特にスマートフォンからの利用時に離脱が多く、問い合わせ数はなかなか増えませんでした。
制作会社選定のポイント
- 分析力・UI/UX改善力に注目
全面リニューアルを行わなくても、部分的な改修で成果が出る可能性があったため、アクセス解析やヒートマップツールを使い、ユーザーの動きを詳細に分析できる会社を探しました。 - スピード感のある対応
大掛かりな制作ではない分、短期間で効果を確認しながらブラッシュアップしていく方針をとる必要があったため、レスポンスが早く柔軟に調整してくれるパートナーを優先しました。
結果 - フォーム周辺のデザインと導線を改善するだけでなく、フォーム項目の見直しと不要フィールドの削減を行ったところ、問い合わせ完了率が大幅に向上。
- 短期的に成果を出せたことで、社内でも「定期的にサイトを改善し続ける」意識が高まり、継続的なデジタル施策への投資が増えました。
事例から学べること
- 自社の目的や課題に合った強みを持つ制作会社を選ぶ
事例Aのように、単なるデザイン力だけではなく、マーケティングやブランディングに強い会社を選んだからこそ成果が上がったケースがあります。自社が最も求めるスキルセットを明確にすることが第一です。 - 長期的な視点でパートナーを選定する
事例Bでは、ECサイト公開後も継続的に支援してくれる会社を選んだ結果、大きな収益源として成長しました。 - 部分改修や運用フェーズの改善にも対応できるか
事例Cのように、必ずしもフルリニューアルだけが正解ではありません。小さなポイントを改善し、すぐに成果を検証するPDCAサイクルを回すことで、コストを抑えながら効果を高められることもあります。
制作プロセスの一般的な流れ
ここでは、制作会社がWebサイトを完成させるまでの一般的なステップを示し、各段階でどのようなやり取りが行われるのかを簡潔にまとめます。制作会社を選定するうえで、このプロセスを理解しておくとスケジュールや費用見積もりの根拠が把握しやすくなります。
- ヒアリング/要件定義
- 目的・ターゲット・機能要件・デザイン要望・納期・予算などを詳細に聞き取る。
- 必要に応じて既存サイトの分析や、競合他社のベンチマーク調査などを行う場合もある。
- サイト構成・設計
- ページ構成(サイトマップ)の検討、ワイヤーフレーム(ページのレイアウト案)の作成。
- ここでデザインや機能の大枠が固まり、ページ数やコンテンツ量が確定していく。
- デザイン制作
- ワイヤーフレームを元に具体的なデザイン案(トップページや下層ページのデザインパターン)を作成。
- 企業イメージやブランドコンセプト、ユーザビリティを考慮して複数案を提示する場合もある。
- 修正回数の制限などは契約内容に依存するため、この段階で大きく方向転換すると追加費用が発生しやすい。
- コーディング・システム開発
- HTML/CSS/JavaScriptなどを用いてデザインを実装。
- CMS導入やEC機能、問い合わせフォームなど、必要なシステム部分を開発・構築する。
- バックエンドに関わるデータベース設計や外部サービス連携など、要件に応じて工程が追加される。
- テスト・修正
- PCやスマートフォン、主要ブラウザでの表示や動作を確認。
- デバッグや修正を繰り返し、完成度を高める。
- コンテンツの整合性チェック、誤字脱字やリンク切れのチェックなども行う。
- 納品・公開
- サーバーやドメインを準備し、本番環境へアップロードして公開する。
- 納品時に制作データやアカウント情報を渡してもらう場合もあるので、契約内容を事前に要確認。
- 運用サポート/保守管理(契約による)
- 定期的な更新やコンテンツ追加、アクセス解析を使った改善提案などを継続的に行うかは契約内容による。
- セキュリティ対策やトラブル時の緊急対応など、保守契約を締結している場合はここで対応が発生する。
このプロセスを理解しておくと、「なぜこの工程が必要なのか」「どうしてこれだけの費用がかかるのか」が見えやすくなります。また、それぞれの段階で「どのタイミングで確認や修正をすべきか」も把握できるため、制作会社とのスムーズな連携を実現しやすくなるでしょう。
保守管理と運用フェーズのポイント
Webサイトは公開後がスタートです。ここを怠ってしまうと、せっかく制作したサイトの効果を十分に活かせず、競合他社に差をつけられてしまう恐れがあります。以下のような点を押さえて、運用フェーズもしっかり活用しましょう。
1. 定期更新と情報鮮度の維持
- 新着情報やキャンペーンの告知
サイトを訪問するユーザーにとって、最新情報が得られるかどうかは重要な要素です。更新頻度が低いと「動いていない会社」という印象を与えてしまいます。 - 商品のラインアップや実績のアップデート
新商品や導入事例などを逐一掲載することで、顧客にとって有益な情報が増え、信頼感が高まります。
2. アクセス解析と改善サイクル
- アクセス解析ツールの導入
Googleアナリティクスや各種ヒートマップツールを利用し、サイト訪問者の行動をデータで把握します。 - KPI設定と継続的な分析
「問い合わせ件数」「カート離脱率」「ページ滞在時間」など、目標とする指標を設定して定期的に分析し、必要に応じて改善策を実行します。 - 小さな変更で効果検証
ボタンの配置や文言、ページの構成を少し変えるだけでも成果が変化することがあります。大がかりな改修前に小さなテストを繰り返すことで、コストを抑えながら最適化を図ることが可能です。
3. セキュリティ対策とバックアップ
- CMSのバージョンアップ対応
WordPressなどのCMSを使っている場合、定期的なバージョンアップを怠るとセキュリティリスクが高まります。 - プラグインの更新・管理
使わなくなったプラグインをそのままにしておくと、セキュリティホールや競合による不具合の原因になることもあります。 - 定期バックアップ
万が一の障害やハッキングに備え、サイト全体やデータベースのバックアップをとる体制を整えましょう。
4. 運用担当者の教育
- CMSの使い方や基本的なHTML知識の習得
制作会社に依頼するかどうかは別として、最低限の更新が自社内で行えると運用効率が上がります。 - マーケティング知識の強化
運用担当者がSEOやWeb広告の基礎を理解していると、データ分析や改善提案がより実践的になります。
5. 制作会社との連携ルール
- 定期ミーティングの実施
月に1回、あるいは四半期ごとなど、あらかじめミーティングの頻度を決めておくと情報共有がスムーズ。 - 改修要望の取りまとめ
小さな要望が積み重なるとコストも膨らみがちです。一定期間で要望を集約し、まとめて改修依頼を出す方法も有効です。
運用フェーズを意識せずにサイトを作り終わってしまうと、「作りっぱなし」で放置されるケースが少なくありません。結果、サイトのユーザー体験が時代や顧客ニーズに合わないままになり、作った意味が半減してしまいます。サイトの成長を継続させたい場合は、保守管理や運用を念頭に置いた制作会社選定が必要となるでしょう。
トラブル事例と対処法
実際には、制作会社とのプロジェクト進行中や納品後にトラブルが起こるケースもあります。以下にいくつかの典型的な例と、その対処法・予防策をまとめました。
1. 納期遅延
事例
途中でクライアント側の要望が変わった、担当者が急に退職した、デザイン修正が想定より多かったなどの理由で、当初のスケジュールを大幅にオーバーする。
対処法・予防策
- 仕様変更や修正依頼は都度ドキュメント化し、追加の期間や費用が発生する場合は早めに協議する。
- 打ち合わせやチャットツールでのやり取りを定期的に行い、進捗を可視化して把握する。
- 制作会社と自社で「予備のバッファ期間」を持ってスケジュールを組む。
2. 追加料金が高額になった
事例
要望が増えたり仕様が大きく変わったりして、見積もり額の何倍もの追加請求が発生する。
対処法・予防策
- 初期段階で「想定外の変更があった場合の追加料金」の目安を明記してもらう。
- 要望追加の際は、どの程度の工数が増えるのか、費用がいくらになるのかを都度確認し、合意を得てから作業を開始してもらう。
- 予算上限を最初に伝え、依頼範囲をコントロールする。
3. デザインのテイストが合わない
事例
制作会社から提案されたデザインが、会社のイメージやターゲット層にまったく合わず、大きな方向転換が必要になってしまう。
対処法・予防策
- 最初の打ち合わせで参考サイトやビジュアルイメージをしっかり共有し、認識相違を減らす。
- ワイヤーフレームやラフデザインの段階でフィードバックをこまめに行い、大幅修正を回避する。
- デザイン修正の回数上限や追加費用の発生条件を事前に把握しておく。
4. 納品物やデータの権利関係でトラブル
事例
納品後に制作データがもらえない、使用している画像やフォントのライセンスが不明瞭で問題が起こる。
対処法・予防策
- 契約書や発注書で、納品物の範囲やソースコード・デザインデータの著作権譲渡の有無などを明文化。
- 画像やフォントなどの素材に関して、ライセンス情報を制作会社から提示してもらう。
- 将来的に別の制作会社へ依頼する可能性がある場合は、編集可能なファイルの扱いを明確にしておく。
このようなトラブルは、最初にコミュニケーションを綿密に行い、契約書の段階で可能な限り詳細を取り決めておくことで、かなりの部分を回避できます。問題が起きてから対処するよりも、起きる前に防ぐ方が費用・時間の両面でメリットが大きいと言えるでしょう。
さらに検討しておきたい選定時のポイント
ここで、制作会社選定の最終段階において、見落としがちな追加チェック項目や検討材料をいくつか紹介します。
- 契約形態は準委任か請負か
- 一般的にWebサイトの制作は請負契約が多いですが、要件定義などのコンサルティング部分や運用・改善といった継続的業務は、準委任契約で進めるケースもあります。それぞれ契約上の責任範囲が異なるため、認識を合わせておきましょう。
- 納品後の評価軸と実績公開の可否
- 「リリース後○ヶ月で問い合わせ数が何件増加した」といった成果を公開することによって、制作会社と自社がWin-Winの関係を築くケースがあります。共同で成功事例としてPRを行うなど、制作会社にとってもメリットがあれば、費用や納期などで柔軟な対応を得やすくなる場合も。
- ホームページ以外の周辺施策の必要性
- Webサイトの運用だけでなく、動画やSNS運用、オウンドメディアの立ち上げなどが必要になる場合があります。将来的に視野が広がる可能性が高い場合、関連領域へも対応可能な制作会社やパートナーを選ぶとスムーズです。
- 制作実績の“数”だけにとらわれない
- 制作会社の公式サイトを見ると「制作実績500社以上」といったアピールがあるかもしれませんが、それだけで安心するのは早計です。むしろ1件1件の“質”や、“自社との相性”が重要です。単に数で比較するのではなく、具体的な事例の中身を丁寧に見極めるようにしましょう。
- 担当者との相性・人柄を考慮する
- どれだけ技術力や経験が豊富な会社でも、プロジェクトを進めるうえで担当者との相性が悪いとストレスが溜まりやすく、成果にも影響が出る可能性があります。初回打ち合わせの段階で「話が噛み合うか」「相談しやすいか」をしっかり感じ取ることも大切です。
外部委託と内製化の比較検討
Webサイト制作を外部の制作会社に任せるか、それとも自社内で担当者を抱えて内製化するか。この選択で悩む企業も少なくありません。最終的には「どの領域を内製化し、どの領域を外注化するか」のバランスを見極める必要があります。以下では、そのメリット・デメリットを整理し、どのような状況で外部委託が望ましいか、あるいは内製化が適しているかを考えてみましょう。
1. 外部委託のメリット
- 専門性の高い人材をすぐに活用できる
デザイン、プログラミング、マーケティングなど、領域ごとにスペシャリストが在籍する制作会社に依頼すれば、短期間で質の高い成果が見込めます。 - リソース不足を補える
中小企業の場合、人手や時間に限りがあります。日常業務に加えてWebサイト制作まで手が回らない場合、外部委託によってリソース不足を解消できます。 - 最新のツールや技術へのアクセス
制作会社は日々多様な案件をこなしているため、最新の制作ツールやトレンドを踏まえたサイト制作が期待できます。
2. 外部委託のデメリット
- コミュニケーションに工数がかかる
外部パートナーとは常に密接なやり取りが必要で、要件のすり合わせや修正依頼などに手間や時間がかかる場合があります。 - 費用がかさむことがある
内製化できるスキルがあれば人件費の範囲内で対応可能ですが、外部委託はその都度制作費用が発生するため、長期的にはコストが大きくなるケースもあります。 - ノウハウが社内に蓄積しにくい
サイト運営に必要な知識やスキルが外部に依存してしまうと、将来的な内製化やスピーディーな更新対応が難しくなる可能性があります。
3. 内製化のメリット
- 社内知識やノウハウの蓄積
自社内でコンテンツを作成し、メンテナンスを行うことで、Webマーケティングやサイト運営のノウハウが社内に蓄積します。 - 素早い対応が可能
更新や修正を即座に実行できるため、タイムリーな情報発信やキャンペーン実施などがしやすくなります。 - 長期的なコスト削減
社員のスキルが向上し、日常的な更新業務を内製化できるようになれば、外注費用を抑えられる可能性があります。
4. 内製化のデメリット
- 初期導入コストと学習コスト
Web制作の専門スキルを持つ社員を採用・育成するには時間やコストが必要です。未経験の場合は勉強時間やツールの導入費用がかさむこともあります。 - 属人化リスク
特定の社員だけがサイト構築の知識を持つようになると、退職や長期休暇などの際にサイト更新がストップしてしまうリスクがあります。 - クオリティ面の課題
自社内だけで制作を完結させると、デザインや開発、マーケティングなど専門領域のクオリティが外部のプロと比べて劣る可能性があります。
5. ハイブリッド運用の考え方
全てを外部に任せるか、全てを社内で行うか、どちらか一方に偏らず、必要な部分だけ外注するハイブリッド型の考え方も重要です。例えば以下のような切り分けが挙げられます。
- デザインや高度なシステム開発は外部委託、日常の更新やコンテンツ投入は社内
一度プロの手でサイト全体の設計やデザインを作り込み、公開後の運用・更新を内製化するパターン。 - 戦略立案やマーケティング施策は外部委託、制作・運用は社内
プロジェクト全体の戦略設計やコンサルティングは専門家に依頼しつつ、具体的な制作工程や運用を社内で行うパターン。
自社のリソースやスキルセット、予算を踏まえ、どこを社内でまかなうか、どこを外注するかを整理しておくことで、最終的な制作会社選定の意思決定が明確になるでしょう。
価格交渉と契約のポイント
制作会社に依頼するとき、必ずしも提示された見積金額をそのまま受け入れなければならないわけではありません。もちろん、無理な値下げ要求は相手方のモチベーションを下げるリスクがありますが、プロジェクトの優先度をすり合わせながら適切な範囲で交渉することは可能です。
1. 価格交渉をスムーズに行うための準備
- 優先度を明確にする
すべてを完璧にしようとすると予算が膨らむため、まずは「デザインにこだわりたい」「システム開発は後回しにして最低限の機能でスタートしたい」など、プロジェクトの優先順位を整理しましょう。 - 見積書を比較検討する
複数社から見積りをとり、内容の差異をしっかりと把握したうえで交渉の材料にします。ただし、他社の見積書をそのまま相手に見せるのはトラブルの原因になり得るため、注意が必要です。 - 具体的に削れる要素を提示する
「この機能は本当に必要なのか」「デザインパターンの提案数を減らすことで費用を抑えられないか」といった具体的なダウングレード案をあらかじめ想定しておくと、交渉がスムーズになります。
2. 契約書での確認事項
- 成果物の範囲と納品形態
サイトデザインのデータ、ソースコード、マニュアルなど、どこまでを成果物とみなすかを明確化する。 - 著作権・利用権
デザインやコードの著作権は制作会社側に残るのか、それともクライアント側に譲渡されるのか。今後の改修や運用に必要な範囲で利用権が確保されているかを確認します。 - 秘密保持と情報管理
自社のビジネス情報が外部に漏れないよう、秘密保持契約(NDA)の内容を確認します。 - 支払い条件・支払いスケジュール
着手金や中間金、納品後の残金支払いなど、支払いのタイミングを明文化します。大規模案件の場合は複数回の分割が一般的です。 - トラブル時の対応
納期遅延やクオリティ不足、契約解除の条件など、万が一のトラブルが起きた際の対応策を契約書に盛り込んでおくと安心です。
制作会社との長期的な関係構築
Webサイトは1度作って終わりではなく、運用やマーケティング施策を通じて継続的に育てていくものです。そのため、制作会社との関係を長期的に良好に保つことは、サイトを成功に導くうえで大きなアドバンテージとなります。
1. 定期的なコミュニケーションとフィードバック
- 運用レポートや解析結果の共有
定期ミーティングを実施し、アクセス数や問い合わせ数の推移、ユーザーの反応などを制作会社と共有することで、次の改善策が見えてきます。 - 成功事例の共有
制作会社としても自社の成果をアピールしたい背景があるため、サイトが成功した事例を共有してもらえるよう働きかけると、より良い提案が期待できます。
2. 相手の得意分野を理解し、うまく活用する
- 得意分野にリソースを集中してもらう
制作会社が特に得意とする分野(デザイン、プログラミング、マーケティングなど)を見極め、そこに集中してもらうような依頼の仕方を心がけると、高品質の成果が期待できます。 - 他領域の制作会社やパートナーとも連携
必要に応じて別の専門分野を持つ制作会社やフリーランスを組み合わせる場合もあります。その際、各社が互いに協力しやすいよう、ディレクション体制を整えることが大切です。
3. 適度なコスト意識のバランス
- 安易なコストカットは避ける
運用費や制作費をただ削るだけでは、クオリティや成果が下がるリスクがあります。コスト削減が目的化しないよう注意します。 - 成果に見合う投資を意識する
Webサイトを通じた売上拡大やブランド強化などの恩恵を踏まえ、必要な部分には適切に予算を投下する判断が重要です。
よくある質問と回答
最後に、制作会社の選定やWebサイト制作に関して多くの企業が抱く疑問をまとめ、簡単に回答してみます。参考にしてください。
Q1. 制作会社の規模が大きい方が安心でしょうか?
A. 必ずしもそうとは限りません。大規模企業はリソースが豊富で安心感はありますが、案件規模に合わない高額な提案になる場合や、小規模案件だと優先度が低くなりがちな傾向もあります。一方で小規模会社やフリーランスは、コミュニケーションしやすく柔軟に対応してくれるメリットがあります。自社のニーズに合った規模感を選びましょう。
Q2. なるべく費用を抑えたいのですが、どこを削るべきですか?
A. 必要性が低い機能やページ数を見直す、画像や文章などのコンテンツを自社で用意する、デザインパターンの数を減らすなどの方法があります。ただし、やみくもに削るとサイト全体の完成度や成果が落ちる恐れがあるので、優先順位をしっかり検討することが大切です。
Q3. 見積もり額の幅が大きいのですが、なぜでしょうか?
A. 制作会社によって、人件費や工数の算出方法、標準機能やサポート範囲の設定が異なるためです。また、デザイン性やオリジナル要素にこだわるほど工数は増え、費用も上がりやすくなります。見積もりを比較する際は、項目や範囲の違いを丁寧に確認しましょう。
Q4. Webサイトをリニューアルすれば、すぐに売上は上がりますか?
A. 必ずしもリニューアル直後に売上が上がるわけではありません。Webサイトは継続的な運用とマーケティング施策が重要です。リニューアルはあくまでスタートラインであり、そこから定期的な更新やコンテンツ強化、分析・改善を繰り返すことで効果が高まっていきます。
Q5. 納品後にすぐ別の制作会社に依頼してもいいのでしょうか?
A. 権利関係や契約の内容を確認する必要がありますが、技術的には可能です。ただし、プロジェクトの背景やコンセプトを一から共有し直す手間が発生するので、コストと時間が無駄にかかる場合があります。長期的に付き合える相手を選んだ方が得策です。
今後のWeb制作動向と押さえておきたい視点
近年は、Webサイトに求められる役割が多様化・高度化しており、制作会社の選び方もそれに伴って変化してきています。ここでは、これからのWeb制作において特に意識しておくべき要素や動向を紹介し、最適なパートナーを見つける際のヒントとします。
1. ユーザーエクスペリエンス(UX)の重要性
これまでのWebサイトは「情報を掲載する」ことが主な目的とされてきましたが、現代ではユーザーがサイトでどのような体験を得るかが大きく成果を左右します。
- ユーザー中心設計
サイトを利用するユーザーのニーズや行動特性を徹底的に分析し、設計・デザインに落とし込むアプローチが主流です。制作会社を選ぶ際は、単に見た目の美しさだけではなく、ユーザビリティを考慮した提案をしてくれるかを確認しましょう。 - アクセシビリティの配慮
高齢者や障がいのある利用者にも配慮したアクセシブルなデザイン設計は、社会的要請が高まっています。制作会社によってはアクセシビリティガイドラインを遵守する知識や経験があるかどうかが大きな差となるでしょう。
2. モバイルファーストとマルチデバイス対応
スマートフォンの普及が当たり前になった今、モバイルデバイスでの最適表示はもはや必須要件です。加えて、タブレットやスマートウォッチなど、新たなデバイスが次々と登場しています。
- レスポンシブデザイン
画面サイズやデバイスごとにレイアウトを柔軟に調整するレスポンシブデザインは標準的な実装方法となっています。 - モバイルでの読み込み速度
回線速度や端末性能に左右されやすいモバイル環境では、サイトの読み込み速度がユーザー離脱率に大きく影響します。画像やスクリプトを適切に圧縮・最適化しているか、制作会社がどのような手法を持っているかも重要な確認ポイントです。
3. コンテンツマーケティングの浸透
Webサイトの運営は「どれだけ継続的に良質なコンテンツを発信できるか」が成果を左右します。コンテンツマーケティングへの理解がある制作会社を選べば、サイトの設計段階から運用を見据えた仕組みづくりが期待できるでしょう。
- キーワード調査とSEO対策
記事コンテンツやLPなどを用いて、検索流入を増やす戦略を立案するには、ターゲットとするキーワードやユーザーの検索意図を的確に把握することが欠かせません。 - 記事更新やキャンペーンとの連動
サイトリリース後も定期的に記事を投稿し、SNSやメールマガジンなどのチャネルとも連動させることで、ユーザーとの接点を増やす試みが求められます。
4. カスタマージャーニー全体の設計
ユーザーはWebサイトだけで完結せず、SNS・広告・口コミなど複数の経路を経て商品やサービスを認知・比較・購入に至ります。
- 複数タッチポイントとの連携
広告・SNS・リアルイベントなど、それぞれの接点でユーザーが得る情報とWebサイトの情報が整合性を保つ必要があります。制作会社が全体設計の視点を持っているかどうかが、スムーズな顧客体験の要となります。 - 顧客データの活用
サイトに訪れたユーザーの行動履歴を活用して、リターゲティング広告を出したり、パーソナライズした情報を表示したりといった手法が一般的になりつつあります。こうした仕組みを導入する際は、制作会社がマーケティングオートメーションやデータ分析に精通しているかを確認しましょう。
5. SDGs・ESGへの対応とコーポレートコミュニケーション
近年、企業の社会的責任(CSR)やESG投資、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが注目され、企業サイトの「社会性」や「環境配慮」の発信も重要になっています。
- ステークホルダーへの情報提供
社員や取引先、投資家、地域社会など多様なステークホルダーに向けて、企業の活動状況を開示する場としてWebサイトが機能します。 - ポリシーやレポートの可視化
サステナビリティレポートや環境方針、コンプライアンスの取り組みなどをわかりやすくまとめるデザイン力・情報整理能力が求められます。
まとめ
制作会社を選定する際に考慮すべき基準や価格相場、運用体制、さらには今後のWeb制作動向などを幅広く解説してきました。ここで紹介したポイントを踏まえ、自社に合った制作会社を選び、Webサイトの持つ潜在的な力を最大限に引き出していただければ幸いです。
- 制作会社選定の重要性
価格だけでなく、実績・コミュニケーション・サポート体制・専門分野などを多角的に確認することが不可欠です。 - 選定をスムーズに進めるポイント
目的・要件の明確化、複数社へのアプローチ、コミュニケーションフローの構築など、事前準備をしっかり行うことで成功率が高まります。 - 価格に関する知識
見積もりは工数や機能要件、デザインのこだわり度合いなどで大きく変動します。相場感を理解しながら、必要な要素に優先順位を付けて予算内に収める工夫が大切です。 - 運用フェーズの重要性
Webサイトは公開後こそが本番です。定期的な更新、アクセス解析、ユーザー体験の改善、セキュリティ対策など、運用・保守を視野に入れた制作会社との連携が長期的な成果につながります。 - 自社に合ったパートナー選び
デザイン特化、マーケティング特化、システム開発特化など、会社ごとに強みが異なります。自社の強みや不足している分野を見極め、最適なパートナーを探しましょう。 - 今後のWeb制作動向
UX、モバイルファースト、コンテンツマーケティング、マルチチャネル対応、ESGやSDGsへの取り組みなど、企業を取り巻くデジタル環境は進化を続けています。時代の流れをつかみながら、サイトを継続的に育てる視点を持つことが欠かせません。
Webサイトは企業の顔であると同時に、顧客や社会との接点を作り出す重要なプラットフォームでもあります。適切な制作会社を選び、長期的な視点で共に取り組んでいくことが、デジタル社会におけるビジネスの成功を左右すると言っても過言ではないでしょう。
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