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投稿日:2025.09.03  最終更新日:2025.7.23
制作・技術

グローバル展開を視野に入れた多言語サイト作成の初歩:成功への基本

グローバル展開を視野に入れた多言語サイト作成の初歩:成功への基本

多言語サイトを作る背景・意義

グローバル市場への展開を検討し始めると、まず課題になるのが海外からの問い合わせ対応です。国内中心に事業を行ってきた中小企業でも、今ではネットを介して海外からコンタクトが来る場合があり、そのときに日本語しか用意がないとスムーズなやり取りが難しくなります。そこで多言語サイトを用意しておくことで、海外からアクセスしたユーザーに対しても分かりやすい情報提供が可能になります。

実際に日本語のみのコーポレートサイトやサービス紹介ページを運営している場合、英語をはじめとする外国語対応を検討すると、以下のようなメリットが考えられます。

  • 海外からの問い合わせ数の増加
    ユーザーが自分の言語で情報を得られるため、問い合わせや商談へのハードルが下がることが期待されます。
  • グローバルな信頼感の獲得
    単に翻訳しただけではなく、現地の文脈や商習慣にも配慮した内容を提示できれば、自社の信頼度やブランドイメージが向上しやすいです。
  • 海外ユーザー向けマーケティングの基盤構築
    本格的な海外進出前に、小規模ながらも現地のニーズを探る一歩となり、ビジネスチャンスを広げられます。

しかし多言語化にはメリットばかりではありません。適切に翻訳しなければ誤解を生むリスクがあり、また運用コストも増える可能性があるため、事前準備と正しい知識が不可欠です。

こうした背景を踏まえ、グローバル展開を視野に入れた多言語サイト作成の初歩として「なぜ多言語化が必要か」という意義を明確に理解し、目的やゴールを設定した上で作業を進めることが肝心です。

翻訳方法の種類と選び方

多言語サイトを構築するとき、最も大きな懸念の一つは「翻訳の品質」です。以下に主な翻訳方法を挙げ、それぞれの特徴と選択肢について整理します。

機械翻訳のみを使う方法

手軽に翻訳を行えるため、導入コストを抑えやすいのが利点です。しかし表現のニュアンスや専門用語などが誤訳されるリスクが高く、海外ユーザーに正確な情報が伝わらない可能性があります。「とりあえず英語ページを形だけ用意する」という目的なら簡単ですが、ブランドイメージやビジネス拡大を考えると品質面の不安が残ります。

プロ翻訳者への依頼

翻訳会社や専門の翻訳者に委託する方法です。文章表現や文化的背景を考慮し、より自然で正確な翻訳が期待できます。費用と納期はかかるものの、グローバル展開を視野に入れるならば、適切な投資と考えられます。

社内のバイリンガルスタッフに依頼

社内に英語などの母語レベルでコミュニケーションができる人材がいる場合、サイト内容を深く理解した上で翻訳してもらえる利点があります。ただし、担当者に負担が集中したり、デザインやコーディング知識が不足している場合、翻訳の更新が遅れがちになるなどの課題も考えられます。

機械翻訳+チェック体制

自動翻訳ツールを下訳として活用し、その後に人間が校閲・修正を行うハイブリッド方式です。作業コストの削減と品質保持の両立がある程度期待できるため、中小企業が多言語サイトを管理する上での妥協点となるケースも多いです。

こうした翻訳方法の選び方は、以下の要素で決めるとよいでしょう。

  • 翻訳に費やせる予算や時間
  • 自社での運用体制(更新頻度やスタッフのスキル)
  • 翻訳品質への要求度(ブランドイメージとの兼ね合い)
  • 対象市場や言語の特性(英語以外の場合はローカルエージェントの方が有利なケースも)

下記の表は、各翻訳方法の「コスト」「品質」「導入ハードル」などを大まかに整理したものです。

翻訳方法コスト品質導入ハードル
機械翻訳低~中
プロ翻訳者中~高
社内バイリンガル低~中やや高(人材次第)
機械翻訳+チェック中~高

予算や納期、翻訳精度の許容範囲などを考慮し、自社に合った選択を行うことが重要です。

サイト構成とデザインの注意点

多言語サイトを作るときに、単純に「言語を切り替えるだけ」で済まない点がいくつかあります。以下では、中小企業が初めて多言語対応をする際に意識すべきポイントを挙げます。

  1. 言語切り替えメニューの配置
    ユーザーが簡単に言語を切り替えられるよう、サイト上部や固定バーなど目立つ位置にボタンを配置します。言語名は記号や国旗アイコンだけでなく、テキスト表記も添えると分かりやすくなります。
  2. URL構造
    多言語サイトでは、言語別のURL構造を明確に分ける方法(例:/en/, /fr/ など)が推奨されます。同一ページ内の動的切り替えでも実現はできますが、検索エンジンのクロールやインデックスを考慮すると、ディレクトリやサブドメインを使って言語を分ける方が管理しやすいケースが多いです。
  3. 翻訳範囲の明確化
    自社紹介ページや製品・サービス詳細ページ、問い合わせフォーム、プライバシーポリシーなど、どこまで翻訳を行うかを明確にすることが大切です。全ページを一気に対応しようとして途中で挫折するよりも、優先度の高いページから段階的に翻訳する方がスムーズです。
  4. デザインのレイアウト調整
    言語によって文字数や表示幅が大きく変わる場合があります。特に英語から欧州言語、アジア言語などに広げると、文字の折り返しや行間が崩れやすくなるため、柔軟なレイアウト設計が必須です。
  5. フォントや文字コードの考慮
    特定の言語(アラビア語や中国語など)では、標準フォントでは表示が崩れる可能性もあるため、該当言語に適したフォントを選択することが望ましいです。

文化的要素への配慮とローカライズ

言語が通じても、文化的背景や商習慣が異なる場合には注意が必要です。単純に日本語を英語に置き換えれば伝わるというわけではありません。特に以下のような点に気を配るとよいでしょう。

  • 数値や日付表記
    日付の順番や単位が国によって異なります。メートルとフィート、摂氏と華氏など、ユーザーが自然に受け止められる表記に合わせると親切です。
  • 決済方法や価格表示
    通貨単位や税金の計算方法が違う場合、ユーザーが混乱しないよう詳細を説明する必要があります。
  • 画像や写真の選定
    国や地域によっては、特定の色やモチーフが良い意味を持たない場合があります。可能であれば、現地の感覚を理解した上で適切なビジュアルを用意するのが望ましいでしょう。
  • ローカライズの範囲
    商品名やサービス名、そのままカタカナや英語表記で通じるなら問題ありませんが、地域によっては発音や言葉の響きがネガティブに捉えられるケースもあります。気になる場合は現地のパートナーや翻訳会社に相談して意味合いをチェックすることをおすすめします。

こうした言語以外の要素を調整することを総称して「ローカライズ」と呼ぶことがあります。翻訳だけでなく、商習慣や文化的背景まで考慮することで、ユーザーとの距離を縮めることができます。

翻訳プロセスと作業フローの具体例

一口に「翻訳作業をする」といっても、実際にはさまざまなステップがあります。例として、多言語サイトの翻訳プロセスを一覧表にまとめます。

ステップ作業内容ポイント
1. 翻訳範囲の確定どのページやコンテンツを翻訳するか決定優先度の高いページから着手
2. 翻訳原文の抽出翻訳対象となるテキストを抜き出すCMSからテキストを出力するなど方法は様々
3. 翻訳作業翻訳ツールを使う、またはプロ翻訳者に依頼用語集やスタイルガイドがあると便利
4. チェック・校正翻訳された内容をネイティブや担当者が校閲品質面と誤訳防止のために重要
5. 実装・レイアウト調整翻訳後のテキストをサイトに適用し、レイアウトを確認デザイン崩れがないか念入りにチェック
6. 最終確認ページ全体を総合的に確認ブラウザやデバイスごとの表示を検証
7. 公開・運用本番環境へ反映し、多言語ページを公開定期的なメンテナンスと更新が必要

上記のフローを踏むことで、翻訳の品質を担保しながら効率良く作業を進められます。特に確認(校正)段階を飛ばしてしまうと、誤訳がサイトに残り続ける可能性があるため注意が必要です。

多言語化のメリット・デメリット比較

多言語化は海外ユーザーとの接点を増やす反面、新たな課題やリソースも必要になります。以下の表では、メリットとデメリットを比較してまとめています。

項目メリットデメリット
①新規顧客獲得海外からの問い合わせや引き合いが増える可能性言語圏ごとにマーケティング戦略が分散し、管理が煩雑
②ブランド向上ローカライズされた情報提供により信頼度向上、国際的な企業イメージを獲得可能不適切な翻訳や文化無視の表現でブランドイメージを損なう恐れ
③競合優位性国内企業よりも早く海外ユーザーにアプローチできるサイト規模が大きくなることで運営コストが増加
④リスク管理危機管理(クレーム対応など)を多言語で行える多言語対応の情報を定期的にアップデートし続ける手間
⑤長期的展望本格的な海外市場参入の土台が築ける言語の追加や変更が将来的に増え続ける可能性がある

こうしたメリット・デメリットを事前に把握し、リスクを最小化しつつも恩恵を最大化するよう戦略を練っておくことが大切です。

実装・運用手順と注意点

いざ多言語サイトを実装しようとすると、細かな調整や管理業務が発生します。ここでは主な実装手順と、運用時の注意点を紹介します。

  1. サイトの言語構成を決める
    まずは対象となる言語を明確にします。英語だけでなく、中国語や韓国語、スペイン語など可能性はさまざまです。しかし、一度に多くの言語を展開すると管理が煩雑になるため、最初は主要な1~2言語に絞る方が現実的です。
  2. 言語別のURL設計
    先述の通り、サブディレクトリ(例:/en/)やサブドメイン(en.example.com)などに分けて運用すると、SEO上の明確化に役立ちます。
  3. 翻訳管理ツールやCMS拡張の導入
    多言語機能を備えたCMS(コンテンツ管理システム)や翻訳管理プラグインを活用すると、ページごとに翻訳内容を管理しやすくなります。翻訳の更新も定期的に発生することを考慮し、運用フローを整えることが重要です。
  4. コンテンツ更新時の多言語追従
    日本語版のコンテンツを更新したときに、翻訳済みのページはどう追従させるか決めておく必要があります。更新のたびに翻訳者に依頼するのか、機械翻訳で仮訳を入れておき後で修正するのか、社内担当者が随時チェックするのかなど、方針を明確にしておくと混乱が少なくなります。
  5. テスト・検証
    多言語対応が完了したら、必ず各言語ページを複数のブラウザやデバイスでテストしましょう。文字化け、レイアウト崩れ、言語切り替えの不具合などが起きていないかを確認します。
  6. 運用マニュアルの整備
    新たにページを追加する場合や、既存ページを編集するときにどう翻訳を進めるのか、一連のフローをマニュアル化しておくと、担当者が変わってもスムーズに運営できます。

多言語サイト実装・運用に役立つチェックリスト例

チェック項目重要度コメント
言語別URL構成が明確になっているかSEOやユーザー導線に影響
言語切り替えメニューはわかりやすいかボタンやテキストラベルの表示方法
主要ページの翻訳漏れがないかお問い合わせページや製品情報等は必須
文化的・習慣的に不適切な表現がないかビジュアルや表現が現地文化に合っているか
多言語CMSやプラグインなどのツールを使うか更新頻度や担当者数によって検討
継続的に翻訳を見直す体制が整っているかビジネスの変化に合わせて常に最適化

多言語サイトは一度作れば終わりではなく、継続的な運用と管理が欠かせません。日本語ページだけでなく、英語やその他の言語ページでも最新情報を正確に反映し続けることで、海外ユーザーにも常に適切な情報を届けられます。

事例とよくあるトラブル例

事例として多いのが、海外展示会に出展したことを機に英語ページを急いで整備し始めた中小企業です。イベント期間中は多くの海外バイヤーと名刺交換を行い、帰国後に「ホームページで詳細を確認してください」と案内するケースがあります。ところが、急場しのぎで機械翻訳をそのまま使い続けてしまい、専門用語が誤訳されてブランド名や製品のアピールが正しく伝わらなかった、という失敗事例があります。

また、言語の右から左へ読む文化圏(アラビア語など)や、文字の形状が大きく異なる言語(ロシア語、タイ語など)に対応しきれず、レイアウトが崩れてしまう問題もよく起きます。この場合はフォントの指定やCSSの記述に特別な考慮が必要です。

さらに、管理体制におけるトラブルも少なくありません。日本語版の内容は頻繁に更新していても、翻訳作業が追いつかずに外国語ページだけ放置されているケースです。せっかく海外ユーザーがアクセスしても情報が古かったり、中途半端なままだと信頼を損ないます。運用方針としては、日本語版と同時進行で更新できるようにするか、最小限のページだけ多言語化してメンテナンスを集中させるか、事前に役割分担を決めておくとよいでしょう。

まとめ

グローバル展開を視野に入れた多言語サイト作成の初歩として、翻訳方法やサイト設計、文化的配慮など多岐にわたるポイントを押さえておく必要があります。単純に日本語を他言語に変換するだけではなく、現地のユーザーにとってわかりやすく魅力的なコンテンツとなるよう、細部まで検討することが重要です。

特に中小企業が最初に英語ページを導入するときには、以下の流れが考えられます。

  • 目的とゴール設定:海外顧客へのアピール、問い合わせの増加、ブランド価値向上など、何を目指すのか明確化する
  • 翻訳方法の選定:予算や運用体制、品質要求にあわせて適切な翻訳スタイルを採用する
  • サイト構成とデザイン:言語切り替えのしやすさ、URL構造、フォントやレイアウトの調整などを検討
  • ローカライズへの配慮:単位や日付表記、文化的・宗教的背景など、単なる翻訳を超えた対応が必要
  • 運用フローの整備:翻訳の追加や更新プロセスを明確にし、継続してサイト品質を保つ仕組みを整える

多言語サイトの構築は一度で終わるものではなく、継続したアップデートと改善が大切です。海外市場をターゲットとする事業展開において、ウェブを通じた情報発信は欠かせない要素になってきています。自社の経営資源やビジョンに合わせて、最適な形で多言語化を進め、信頼度の高いグローバルサイトを目指していきましょう。