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投稿日:2025.10.22  最終更新日:2025.9.29
UX

カスタマージャーニーマップでサイト設計を最適化する方法

カスタマージャーニーマップでサイト設計を最適化する方法

はじめに

複数チャネルを横断して顧客接点が増える一方、「問い合わせにつながらない」「導線が複雑で離脱が止まらない」という悩みを耳にします。原因の多くは、社内視点でページを積み上げただけで、ユーザー体験の流れを俯瞰できていないことです。そこで威力を発揮するのがカスタマージャーニーマップ。顧客の行動・思考・感情を時系列に並べることで、サイトとオフライン施策を統合し、機会損失を最小化できます。本稿ではコワーキングスペース、花屋、精密部品メーカーの事例を軸に、ジャーニーマップを使ったサイト最適化の実践手順を解説します。

カスタマージャーニーマップとは何か

カスタマージャーニーマップは、見込客が興味を抱いてから購買・継続利用に至るまでのステップを、「行動」「接点」「感情」の三層で可視化するフレームワークです。

  • 行動:検索、比較検討、来店、見積もり依頼など
  • 接点:ホームページ、SNS投稿、店頭POP、営業メール
  • 感情:期待、不安、満足、失望

この三層を時系列で並べることで、ユーザーがつまずく瞬間や感情ギャップを特定できます。結果として、サイトのどのページで「安心材料」を提示すべきか、どのタイミングでオファーを出すべきかが明確になります。

フレームワークを使うメリット

  • ページ単位ではなく“体験の流れ”で課題を発見できる
  • オンラインとオフラインの施策を一つの地図で統合できる
  • 改善優先度を数値ではなく“体験阻害度”で判断できる

サイト設計にジャーニーマップを活用する理由

従来のサイト改善はアクセス解析の数字を見て、直帰率や離脱率が高いページを個別に修正する方法が主流でした。しかし、数字の裏にある“なぜ”を探るには限界があります。ジャーニーマップは、数字だけでは見えない感情変化を盛り込み、企業視点と顧客視点のギャップを埋める役割を果たします。

観点従来型サイト設計ジャーニーマップを活用した設計
ゴール設定ページ毎のKPI(PV・CV率)体験全体のゴール(来店率、LTV)
施策単位ページ改善が中心行動ステージごとの施策
改善優先度数値の大きい順体験阻害度の高い順
部門連携Web担当が主導店舗・営業・CSが横串で連携
定着方法キャンペーンごとに刷新PDCAで継続的に更新

表のとおり、ジャーニーマップを導入するとKPIの設定から部門連携まで“全社的な共通言語”が生まれ、部分最適に陥らず改善ループを回せるようになります。

ターゲット別ジャーニーの可視化手順

具体的な作成手順を下記に示します。

手順1:ペルソナを絞る

まずは主要顧客をひとりに絞り込みます。コワーキングなら「月額プラン検討中の30代スタートアップ経営者」、花屋なら「毎週定期装花を依頼したいオフィス管理者」、精密部品メーカーなら「短納期対応を重視する開発購買担当者」といった具合です。

手順2:タッチポイントを洗い出す

検索エンジン、比較サイト、展示会、電話、店頭カウンターなど、顧客が接触し得るチャネルを漏れなくリストアップします。ここで重要なのは「相手が主体的に選ぶ接点」と「企業側から届ける接点」を区別することです。

手順3:行動と感情を時系列で配置

横軸に時間、縦軸に行動・接点・感情を配置し、ストーリーを描きます。感情ラインが大きく落ち込むポイントこそ改善の優先ポイントです。

手順4:阻害要因を特定し優先度を付ける

阻害要因を「情報不足」「操作負荷」「信頼不足」「待ち時間」の4カテゴリに分類し、影響度と発生頻度でマトリクス化します。ここで優先度上位に来る課題だけを次章以降で深掘りします。

ペルソナごとの主な接点と課題整理

三つの業態別に代表的なボトルネックをまとめると、下記のようになります。

業態主接点主要課題感情ギャップ
コワーキングスペース料金プランページ、予約フォームプラン横断比較が難しく離脱「自分に最適か不安」
花屋(オンライン&店舗)商品一覧、在庫情報オン・オフ在庫差異で欠品「注文後に断られ失望」
精密部品メーカー製品検索、図面請求フォームスペック検索が複雑「時間を無駄にした怒り」

この表からも、業態ごとに“感情ギャップ”の質が異なることがわかります。つまり改善策は一つではなく、ジャーニーのどの段階で安心感を与えるかが鍵となります。

ジャーニーマップから導く情報設計の優先順位

ここまでで可視化した課題を、具体的にどのページや機能に落とし込むかを決めます。ポイントは、「顧客の感情が下がる瞬間」を最短距離でケアすること。たとえば、

  • 比較検討段階で不安が大きい場合:FAQを強化し、チャット相談を常設
  • 注文後に失望が起こる場合:在庫情報をリアルタイム連携し、注文前に配送予定日を提示

動線改善の具体策:コワーキングスペース編

ページ構造を「目的別」に再編する

料金やプランの説明が散在していると、ユーザーは情報探索だけで疲弊します。まずは目的視点で階層を整理し、「はじめて利用」「集中作業」「イベント開催」の三導線をトップページから一歩で選べるようにします。各導線では必要最低限の情報を時系列に並べ、迷う前に次の行動へ誘導します。

予約フローを最短3タップに短縮

現状の予約フォームは7画面遷移しています。入力項目を「利用日・人数」「プラン選択」「支払い方法」の3ブロックにまとめ、カレンダーUIと事前カード決済を導入することでスマホでも3タップで完了可能にします。遷移数が減ることで直帰率は約30%改善する見込みです。

会員種別の比較UIをテーブル化

プラン比較はテキストだけだと負荷が高まります。下表のように視覚的なテーブルを設置し、意思決定を支援します。

項目ドロップイン月額スタンダード月額プレミアム
料金1,500円/日25,000円/月45,000円/月
利用時間9‑18時24時間24時間
会議室500円/時月5時間無料月10時間無料
郵便受取×
法人登記××

オフライン体験との連携

店舗受付でのチェックインをQR化し、オンライン予約した顧客は列に並ばず席に直行できる仕組みにします。体験のシームレス化がブランドロイヤリティを押し上げ、LTV向上に寄与します。

動線改善の具体策:花屋オンライン&店舗編

在庫同期システムを導入

店頭とオンラインの在庫ギャップは「注文後キャンセル」の最大要因です。POSとECをAPI連携し、リアルタイムで在庫を更新します。バックヤード業務の二重入力も排除でき、スタッフ稼働を20%削減できます。

商品カテゴリを「用途」で再編

「誕生日」「開店祝い」「法人契約」などシーン別にカテゴリを配置し、目的買いユーザーが直感的に選択できるようにします。これにより回遊率の向上が期待できます。

店舗受取と配送をワンページで選択

カート画面で「店舗受取」と「配送」を並列表示し、受取可能時刻をその場で提示。即日需要を逃さず、配送遅延による不満も軽減します。

法人定期装花の導線

法人向け資料をファーストビューに配置し、「導入事例」「費用感」を示したうえで相談フォームへ遷移させます。単品購入ユーザーとの体験を分岐させることで営業効率が向上します。

動線改善の具体策:精密部品メーカーBtoB編

属性フィルタの3レイヤー設計

離脱データを分析すると、ユーザーは「素材 → 形状 → 寸法」の順で絞り込む傾向が強いことが判明しました。検索UIを3レイヤーに固定し、不要なフィルタを後段に畳み込みます。

図面・カタログDLをワンクリック化

現在は個人情報入力後メールリンクでDLさせていますが、営業許諾チェックボックスを設けたうえで即時DLを許可します。ホットリードを早期に営業へ通知するフローを自動化すればフォロー速度が向上します。

見積依頼フォームを3ステップに簡素化

依頼フォームに「製品ID自動入力」を実装し、ユーザーが型番を再入力しない仕組みにします。入力時間を平均4分→1分まで短縮でき、途中離脱を25%削減できます。

営業シナリオとウェブを連動

DL完了後24時間以内にメールで関連製品を提案し、3日後に営業担当から電話フォローを入れる二段構えでアップセル率を高めます。この流れをCRMに組み込み、トリガーを自動化します。

効果予測まとめ

下表は各改善策の主要KPIへのインパクトを示したものです。

業態主要改善施策期待CVR向上想定LTV増加施策難易度
コワーキング予約フロー短縮+35%+8%
花屋在庫同期+28%+12%
精密部品メーカーフィルタ3レイヤー+22%+6%

KPI設定とモニタリング

改善後の効果を定量化するため、実装前に「予約完了率」「リピート率」「平均利用席数」を4週間ベースラインとして取得します。ローンチ後は週次でダッシュボードを確認し、数値が目標から±5%を越えた段階で即時ABテストを開始します。基準を明文化することで施策がやりっぱなしにならず、改善サイクルを回しやすくなります。

成功の鍵は「小さく試して早く学ぶ」

在庫同期や検索UIの刷新はシステム改修コストが高くなりがちです。プロトタイプを限定ページで先行公開し、実稼働データを取りながら調整するアプローチが効果的です。アクセスの多い製品カテゴリから着手すれば、全体改修前にROIを試算でき、経営判断も下しやすくなります。さらに、改善施策は単発ではなく連動させることで相乗効果が生まれます。例えば花屋の法人定期装花では、オンライン資料請求直後に「来店予約」ボタンを配置した結果、オフライン商談化率が1.4倍に伸びた事例があります。

社内推進体制の整え方

実行フェーズでつまずく典型例は「担当が多忙で兼務できない」「誰が責任者かわからない」ことです。以下のフレームを参考にしてください。

役割主担当部門責務週次タスク
プロダクトオーナー経営企画KPI設定・意思決定ダッシュボード確認
サイト運用リーダーWebチームUI改善・ABテスト実装調整
オフライン連携責任者店舗/営業接客フロー整備フィードバック共有
データアナリストCS/マーケログ解析レポート作成

進行管理ツールの選定

チーム間のステータス共有にはガントチャート型ではなくカンバン型ツールを推奨します。各カードにジャーニーステージをタグ付けすることで、「いま顧客体験のどこを改善しているのか」が一目でわかり、議論がタスクではなく体験起点になります。

次章では、こうした推進体制を用いて改善後の効果を定量・定性の両面から測定し、PDCAサイクルを高速で回す方法を解説します。その手順を具体的に見ていきましょう。

成果測定とPDCAサイクル

改善施策を実装した後は、成果が数字として現れるまで待つのではなく、短いサイクルで検証と修正を繰り返すことが重要です。

定量指標とダッシュボードの設計

主要指標は「集客・体験・収益」の三階層に整理するとボトルネックが把握しやすくなります。週次レビューで全員が同じ数字を見られる環境を整えることで、部門横断での意思決定が加速します。

階層代表指標コワーキング花屋精密部品
集客新規セッション数7,200 → 8,3005,400 → 6,1003,100 → 3,600
体験サイト内回遊率1.8→ 2.42.1 → 2.81.9 → 2.2
収益LTV(円)82,000 → 88,50014,000 → 15,700410,000 → 434,000

ダッシュボードは「改善前平均 → 目標値 → 現状値」を並列表示し、色分けよりも矢印と数値差分で視認性を高めます。これにより、初見の経営層でも一目で成果を把握できます。

定性指標とVOC(Voice of Customer)

数字が改善してもユーザーの不満が燻っている場合があります。サイト内アンケートやチャットログをページIDと紐づけて蓄積し、「感情ギャップ」が再発していないかを確認します。特に花屋では「配送遅延への懸念」が繰り返し登場しやすく、VOCを週次でタグ付けし、同一タグの急増をアラートに設定するのが効果的です。

改善シナリオのABテスト設計

複数施策を同時に試すと因果が混じり、学習コストが跳ね上がります。以下のフレームで“一度に検証する仮説は一つ”を徹底してください。

テスト施策仮説期待指標最低検証期間優先度
予約フォーム入力順変更入力負荷が低ければ完了率が上がる予約完了率+10%2週間A
カテゴリ名の用途化シーン別表示でCTRが伸びる商品詳細CTR+12%3週間B
DLフォーム自動補完再入力負荷削減で離脱が減るフォーム完走率+15%2週間A

優先度Aの施策は、影響度と実装難易度のバランスが取れているため先に実行し、効果が確認できた段階で次のテストへ移行します。

サンプルサイズの確定

テスト結果を有意とみなすには、95%信頼区間で検出したい差分(D)をベースにサンプルサイズを算出します。各ツールの自動計算機能を使う前提でも、事前に「勝ち筋」を定義しておくと途中でブレません。

失敗を防ぐチェックリスト

導線改善プロジェクトで陥りやすい落とし穴を下記にまとめました。キックオフ時に共有することで、手戻りを最小化できます。

項目確認ポイント
ガバナンス施策実施前にプライバシーポリシー改定が必要か
データGA4イベントとCRM属性が一意に紐づくか
ドキュメントワイヤーフレームに更新日と版数を付与したか
リソース外部ベンダーの工数確保とSLAを明文化したか
コストシステム改修費用とROI試算を経営会議へ提示したか

まとめ:最適化を継続するために

  • カスタマージャーニーマップは“施策の地図”。作って終わりではなく、数値とVOCでリアルタイムに更新することで価値を保ちます。
  • サイトとオフラインのタッチポイントを一枚のフレームで管理すると、組織間の温度差が減り、施策が途切れません。
  • 改善は「小さく試し、早く学ぶ」。ABテストとダッシュボード運用を習慣化し、意思決定のスピードを競争優位に変えましょう。