Blog

投稿日:2025.10.19  最終更新日:2025.9.29
運用・改善

画像著作権とフリー素材の安全な使い方入門

画像著作権とフリー素材の安全な使い方入門

画像著作権の基礎知識

著作権とは何か

画像を含む「創作物」は完成した瞬間から自動的に保護されます。登録や申請は不要で、作者が生きている限り、そして死後70年まで権利が存続します。つまり「ネットで拾った画像=誰でも自由に使える」とは決して言えません。

著作者人格権と財産権

著作者人格権は「勝手に改変しないでほしい」「名前を表示してほしい」といった“作品と作者の結びつき”を守る権利で、譲渡できません。一方、財産権は複製・展示・公衆送信など業務で重要になる権利で、こちらはライセンス契約により第三者へ許諾できます。フリー素材を使う際のチェックポイントは主に財産権の範囲です。

権利が切れると完全に自由?

著作権の保護期間が終了するとパブリックドメインになりますが、写真の場合は被写体の肖像権や商標権が残っているケースもあります。例えば歴史的建造物を撮影した画像でも、その建造物の意匠が商標登録されている場合は別途許諾が必要になることがあります。

フリー素材に多い6種類のライセンス

フリー素材サイトで頻繁に見かけるライセンスを整理すると、自社の用途に合うかどうか素早く判断できます。以下の表をベースに、使用前チェックを社内フローへ組み込むと安心です。

ライセンス商用利用改変クレジット表記再配布主な注意点
CC0不要一部サイトは「CC0風」独自規約あり
CC BY必須表記位置の指定に注意
CC BY‑SA必須改変物も同ライセンス共有義務
CC BY‑ND必須サイズ変更すらNGになる場合
Royalty‑Free(RF)不要同業他社が同じ画像を使う可能性
Rights‑Managed(RM)期間・地域で制限契約次第契約次第用途ごとに追加費用が発生

CCライセンス系の留意点

ライセンス文書は英語原文が優先されるため、和訳や解説サイトだけで判断すると抜け漏れが生じます。特に「CC BY‑ND」は改変禁止ですが、トリミングや文字入れも改変扱いになる場合があります。購入前・DL前に一次情報を確認しましょう。

RFとRMの違い

Royalty‑Freeは一度購入すれば一定条件の範囲で追加費用なく繰り返し使えるモデルです。Rights‑Managedは使用期間や媒体を都度指定して料金を支払うため、広告バナーの差し替えやコピー展開が多い事業者には不向きです。「安く済む」と思ってRFに飛びつくと同じ画像が競合のサイトに並ぶリスクもあるため、ブランディングを重視する場合はRMで独占期間を買う選択肢も考えましょう。

安全な素材サイト選び5つの指標

  1. ライセンス表記が一次情報へリンクしているか
    サイト運営者が原典を示さず「商用OK」とだけ書いている場合は要注意です。
  2. 被写体リリース・プロパティリリースの有無
    人物やブランドロゴが写り込む写真は、モデルリリースや商標使用許可が必要になるケースがあります。
  3. 検索フィルターの細かさ
    利用条件ごとに絞り込めるサイトは、使えない画像を最初から除外できるため実務効率が高まります。
  4. 利用実績・レビューの透明性
    企業ユーザーの導入事例や第三者評価があると信頼性が上がります。
  5. 日本語サポート窓口の有無
    海外運営サイトでも、日本語で照会できる窓口があるかは大きな安心材料です。

以上の5項目をチェックリスト化し、素材選定を担当するメンバーが入力する仕組みにすると「誰かが見落とした」リスクを減らせます。Excelやタスク管理ツールと連動させ、確認済みフラグを付けるだけでも効果的です。

商用利用時に必ず確認したいチェックリスト

フリー素材を実際に広告・Webサイトへ実装する前に、以下の12項目を“全て”埋める運用を徹底するとトラブル発生率は大幅に下がります。

番号確認項目OK/NG備考
1ライセンスの正式名称とバージョンを記録した
2原典URLをブックマークした紙の台帳よりリンクが確実
3モデル/プロパティリリースの有無を確認人物・建物が特定できる場合は要チェック
4改変(トリミング・文字入れ等)の許可範囲を確認NDライセンスは改変禁止
5再配布可否を確認パンフレットPDF配布など
6クレジット表記要件を満たす場所を確保折り込みチラシは余白を先に設計
7競合他社が同じ画像を使っていないか簡易リサーチGoogle画像検索の“画像で検索”が便利
8将来の利用拡張(テレビCM・OOH等)の権利も取得済RMの場合は追加費用を見積もる
9ガイドラインに従ってファイル名を命名例:2025_07_画像著作権_CC0.jpg
10担当者と最終承認者の記録を残した責任所在を明確に
11契約デザイナーへの利用条件共有を完了メールやチャットに証跡を残す
12バックアップサーバーに原本を保存万一の差替えに備える

チェックリスト運用のコツ

  • Googleスプレッドシート+データ検証機能で「OK」「NG」以外は入力できないようにする
  • 条件付き書式でNGが1つでもあれば行を赤く染め、リリース前レビューを促す
  • 画像IDや納品日でシートを絞り込めば、後から画像差替えが必要になった際も検索が瞬時

著作権トラブルの実例とリスク対策

ケース1:海外RF画像を二次配布してしまった

あるアパレルECサイトが、購入したRF画像をブログ記事テンプレートとして無料配布したところ、ライセンス違反で約120万円の和解金を支払う事態になりました。原因は「RF=自由」という誤解。一次利用は問題なくても、再配布は契約違反になるケースが多いため要注意です。

どう防ぐか

  • RF契約書の「redistribution」条項を必ず読む
  • 社内CMSに“ダウンロードリンク自動生成機能”がある場合は権限を制御

ケース2:CC BY画像のクレジット表記漏れ

士業事務所の採用ページで使用したCC BY画像に、作者名を記載し忘れて公開した結果、作者から削除要請と50万円の損害賠償請求が届きました。リンク切れやスマホ表示崩れで表記が落ちることもあるため、定期点検が必要です。

どう防ぐか

  • 画像読み込み後にJavaScriptで動的にクレジットを生成する
  • ページ公開後もリンクチェッカーでALT属性・キャプション抜けを監視

ケース3:モデルリリース未取得で広告停止

リフォーム会社が海外女性モデルの写真をバナー広告に使用し、プラットフォーム審査で即時停止。個人の肖像権は国によって保護範囲が異なり、日本国内向け広告でも**「撮影地がEU圏ならGDPR影響」**を受ける場合があります。

どう防ぐか

  • 素材サイトで「モデルリリース済」でフィルタリング
  • EU圏の撮影素材は肖像権だけでなくGDPR適用有無を確認

リスク金額の目安と保険活用

実際に発生した損害賠償額は数十万円〜数千万円まで幅がありますが、業界平均を知っておくと経営判断に役立ちます。

違反タイプ平均賠償額の目安主な要因補償可能な保険
クレジット表記漏れ30万〜80万円作者の営業補償請求知的財産権侵害保険
無断改変・二次配布100万〜300万円契約違反損害+弁護士費用業務過誤保険
肖像権侵害200万〜600万円広告停止損失が加算PL保険+メディア賠償特約
商標権侵害500万〜1500万円ブランド毀損評価額メディア賠償責任保険

ポイント

  • 中小企業でも年額5〜10万円程度で加入できる知財保険がある
  • 契約前に「画像利用を含むメディア運営を行う」と明示する
  • 自己負担額(免責)と示談交渉サポートの有無を比較

交渉の初動フロー

  1. 相手方からの請求書面を受領
  2. 事実関係を社内チェックリストと照合
  3. 加入保険の窓口へ通知し、弁護士選定を委任
  4. 該当画像を即時非公開にし、代替素材へ差替え
  5. コーポレートサイトでの謝罪文掲載は弁護士と相談して判断

初動対応の遅れは賠償額を最大30%引き上げるという海外調査もあるため、画像周りの危機管理マニュアルは必須です。

社内ガイドラインの作り方と運用フロー

ガイドラインに必ず盛り込む7項目

  1. 目的と適用範囲
    例:自社が運営するWebサイト、SNS公式アカウント、印刷物。
  2. ライセンス分類表
    CCライセンス、RF、RM、独自ライセンスなどの概要と注意点を一枚に集約。
  3. 画像取得〜公開までの承認フロー
    担当 → デザイナー → 法務チェック → 部門長承認 → 公開の5段階が目安。
  4. チェックリスト記入の義務化
    Part 2/3で提示した12項目をシート化し、未完項目があると承認申請できない仕組みに。
  5. クレジット表記ルール
    位置、文字サイズ、スマホ対応時のレイアウト例を図示。
  6. 改変ルールとサンプル
    NG例(顔の合成・強いレタッチ)とOK例(トリミング、彩度微調整)をビフォーアフターで提示。
  7. 違反発覚時の一次対応マニュアル
    画像差替え、保険連絡、弁護士相談までの24時間カウントダウン形式で記述。

運用フローの全体像

フェーズ担当ツールアウトプットチェックポイント
素材選定デザイナー素材サイト検索候補URL5件ライセンス一次情報リンク有無
一次審査法務GoogleスプレッドシートOK/NG判定改変許容範囲の確認
二次審査部門長タスク管理ツール公開承認リリース済チェックリスト完了
公開広報CMS記事/Banner公開クレジット表記プレビュー
定期監査法務リンクチェッカー監査レポートリンク切れ・権利期間満了

ポイント

  • 担当者とツールを固定し“属人化”を防ぐ
  • フロー表はガイドラインの冒頭に掲載し、社員全員が迷わず参照できる配置に
  • 定期監査を四半期ごとに行い、期限切れRMライセンスを自動リストアップ

ガイドライン策定の進め方

  1. キックオフミーティング(法務・広報・デザイン)
  2. ドラフト作成(法務主導、実務担当者ヒアリング)
  3. パイロット運用(1案件で試験導入し改善点を洗い出す)
  4. 正式リリース(経営会議で承認、社内ポータルに掲載)
  5. アップデートサイクル(年1回+法改正・プラットフォーム規約変更時)

まとめ:リスクゼロに近づく3ステップ

  1. 一次情報で確認する習慣を全員で共有する
    「○○サイトに書いてあったから大丈夫」ではなく、常に原典ライセンスを読む文化を根付かせましょう。
  2. チェックリストと承認フローを自動化する
    Googleスプレッドシートのデータ検証・条件付き書式だけでも、人為的ミスは劇的に減ります。
  3. 保険とマニュアルで“もしも”に備える
    加入保険を見直し、一次対応マニュアルを定期訓練すれば、損害とブランド毀損を最小化できます。

これらを実行すれば、フリー素材の利便性とコスト削減メリットを享受しながらも、法的リスクを限りなくゼロに近づける運用体制が構築できます。