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卸先との関係を保ちながら自社ECを立ち上げる注意点

自社EC立ち上げの目的とメリット
自社でECサイトを立ち上げる際、まず押さえておきたいのは「なぜ自社ECを始めたいのか」という目的です。中小企業の多くが既存の卸先を通じて安定的に商品を流通させていますが、近年はオンライン販路を確保することで新たな市場を切り開きたいと考えるケースが増えています。自社ECを運用すれば、以下のようなメリットが得られる可能性があります。
- 利益率の向上
卸先を通すよりもマージンを高く確保できる可能性があります。 - ブランディング強化
オンライン上で独自の世界観や商品ストーリーを発信しやすいのが自社ECの利点です。 - 顧客情報の蓄積
直接エンドユーザーとやり取りができるので、購買データからマーケティング戦略を立てやすくなります。 - 新規顧客の開拓
既存の流通ルートだけではリーチできなかった消費者層へのアプローチが可能になります。
一方で卸先との関係を損なわずに自社ECを立ち上げるには、明確な方針と慎重な運用が求められます。特に価格や販売チャネルが被ると、卸先から「自社ECに顧客を奪われている」と見なされる場合があります。ここでWin-Winの形をつくるためには、自社ECで「どの層にどうやって販売するのか」を事前に丁寧に設計することが重要です。
卸先との利益衝突を防ぐ価格設定
卸先がいる中で自社ECを始める場合、最大の懸念は「価格競合」の問題です。卸先は卸値と小売価格の差額を利益とするため、自社ECが同じ商品を同じ価格、あるいはそれよりも安い価格で売り出すと卸先が不満を抱く可能性があります。また、卸先によっては「ネット直販なら卸価格を引き下げろ」といった交渉が起こることもあります。
自社ECと卸先それぞれがWin-Winになれるようにするには、販売価格の調整が重要なポイントです。たとえば、自社ECではセット販売や限定商品の販売をメインとし、卸先とまったく同じ商品は卸先のメリットを損なわない価格帯にするなどの工夫が考えられます。
以下の表は、自社ECと卸先の価格設定を考える際の主なパターンと特徴を示した例です。
販売形態 | メリット | 留意点 |
---|---|---|
自社EC限定商品 | 卸先との価格競合を避けやすい | 生産・在庫管理が煩雑になる可能性 |
自社ECと卸先で共通商品 | 生産ロットをまとめやすく単価管理もしやすい | 同一商品の価格差が生じると卸先との関係が悪化しやすい |
セット販売 | 割引をまとめて提示でき、顧客に訴求しやすい | 卸先のバラ売りと比較される可能性 |
自社ECを立ち上げるときは「自社ECに誘導するために大幅な値下げを行う」という安易な戦略ではなく、むしろ卸先とすみ分ける方法が得策です。これには下記のような考え方があるでしょう。
- プレミアム感のある限定パッケージの提供
市場にない特別仕様やセット品なら直接競合しにくい - 購入特典の工夫
価格自体は卸先とあまり変えずに、ポイントやアフターサポートを自社ECだけの特典とする - 差別化したターゲット層への訴求
卸先が主に卸している顧客層とは異なる層を狙う
卸先がある限り、あくまで商品流通全体の一環として自社ECを位置づけることが望ましいです。価格競争を極力回避しつつ、双方に利益をもたらす仕組みを作ることが長期的な成功につながります。
在庫管理と受注フローのポイント
中小企業が自社ECを運用する際に大きな課題となりやすいのが、在庫管理と受注フローです。卸先向けの出荷に注力してきた企業が、新たにオンライン注文も取り扱うとなれば、複数チャネルの在庫を正確に把握する仕組みが必要になります。在庫数の更新が遅れると、ECで注文を受け付けたのに在庫が足りないという事態になりかねません。
さらに、オーダーの受付・梱包・発送・顧客対応までを一気通貫で行うには、担当者やシステムの準備が必要です。ここで卸先と共同で在庫を確保するのか、それとも自社EC専用の在庫を用意するのかによって管理方法が変わってきます。
例として、在庫管理システムの選択に関するポイントをまとめると、次のようになります。
システム形態 | 在庫連動の有無 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
スプレッドシートや手動入力 | 連動なし | 初期費用が少なく導入が簡単 | 入力ミスやタイムラグが発生しやすく、在庫ズレが起きやすい |
シンプルな在庫管理ソフト | 一部ECと連動することも可能 | 自動計算やアラート機能が使える | システム使用料がかかり、カスタマイズ性が限られる |
EC一元管理ツール | 受注データから自動連動・在庫更新 | 各チャネルの受注状況がリアルタイムで把握できる | 導入コストが高い場合が多く、自社の規模や必要性とのバランスが重要 |
卸先との関係を維持しながら在庫を管理する場合、「卸先優先在庫」と「自社EC在庫」を明確に区別する方法もあります。卸先への納品数量を優先的に確保しつつ、自社ECで販売する分は別途在庫を管理するという運用です。もちろん、どちらも共通の倉庫で管理する場合は、システム的な更新をこまめに行い、在庫の誤差が起きないように注意する必要があります。
また、受注フローにおいては以下の点がよく課題として挙がります。
- 問い合わせ対応:ECでの注文者は直接商品を触れずに購入するため、初歩的な質問やクレームが発生しやすい
- 梱包作業の増加:少量多品種の注文が入り始めると、それまでのロット配送とは異なる梱包作業が必要
- 配送業者との契約:小口配送のコストを削減する交渉や、集荷対応の調整
これらは一度仕組みが整えばスムーズに動きますが、最初の設計段階と導入期に手間がかかるため、しっかりとしたリソース配分が大切です。
卸先との関係を強化するコミュニケーション術
自社ECを始めるにあたって、卸先が最も気にするのは「自社に不利になるのではないか」という疑念です。ここを払拭するためには、適切なコミュニケーションが欠かせません。特に以下のようなポイントが挙げられます。
- 事前説明
自社ECの目的や運営方針を、できるだけ具体的に伝える。新規市場の開拓として位置づける。 - 既存チャネルの優先度
卸先を通じた流通も引き続き重視し、大口発注や安定供給を尊重する姿勢を示す。 - 販促の協力提案
自社ECで行うキャンペーンにおいて、卸先との連携や共同PRも検討する。
コミュニケーションの方法は企業の規模や商材によって異なりますが、代表的な手段とその特徴を簡単に表にまとめると、以下のようになります。
コミュニケーション手段 | メリット | 注意点 |
---|---|---|
メール・電話 | 手軽に連絡が取りやすく、誤解が生じにくい | 連絡するタイミングや頻度に配慮しないと負担をかける |
オンライン会議 | 顔を合わせられるため、細かいニュアンスも伝わりやすい | ネット環境の整備が必要、相手の都合と合わせる必要がある |
対面での訪問 | 相手の表情や雰囲気を直接感じ取りながら具体的に話を詰められる | 移動時間や交通費がかかる |
自社ECの販売方針を一方的に打ち出すのではなく、卸先のビジネスを尊重しながらいかに協力関係を築いていくかが鍵です。例えば、卸先限定商品の共同開発や、自社ECでの売上データをフィードバックして小売動向を共有するなど、お互いに得がある形を探ると、関係はより強固になります。
ネット直販のプロモーションと差別化施策
自社ECを立ち上げても、ただオープンしただけでは売上は期待できません。ネットショップとして認知を高め、アクセスを増やすためのプロモーションが必要です。ただし、これも卸先との関係を配慮しながら進める必要があります。
- SNSやブログでの情報発信
商品の魅力や使い方を発信するとき、卸先の販促とも連動できるよう配慮するとよいでしょう。 - 検索エンジン対策
サイトの内部構造やキーワード選定を適切に行い、ユーザーが探している情報に近いコンテンツを提供します。 - 広告出稿
リスティング広告やディスプレイ広告などでターゲット層へ効率的にアプローチ。ただし、広告による安売り訴求は卸先との価格面で摩擦を起こしやすい点に注意。 - キャンペーン企画
自社ECだけの特典やクーポンを活用しつつ、卸先の主力販路に影響が少ない切り口を探る。たとえば新商品の予約販売や限定色などを自社ECで展開する方法があります。
差別化施策としては、たとえば「自社EC限定レビュー記事」や「商品開発ストーリーの発信」、「購入者向けのアフターサポート」など、他では得られない付加価値を提供するのがポイントです。これにより、価格一本槍の競争を避けつつファンを増やすことにつながります。
成功事例に学ぶ具体的アクション
ある中小企業が、既存の卸先との関係を大事にしながら自社ECを立ち上げたエピソードがあります。同社は、まず自社ECで扱う商品を**「限定コレクション」**に絞りました。通常の卸先には卸さない独自ラインナップを中心に展開し、一般流通品と被らないよう工夫したのです。その結果、卸先からは「自社ECの影響で売上が奪われる」という不満はほとんど聞かれず、むしろ卸先側も「より幅広い層に認知を広げてくれるなら歓迎」というスタンスを取りました。
この企業はあわせて卸先を定期的に訪問し、「自社ECの売れ筋や顧客からの声」をフィードバックするように努めました。卸先としても市場トレンドを知る機会となり、新商品の売り場づくりに役立てることができると好評でした。こうした相互理解の積み重ねがWin-Win関係を実現するうえで重要なファクターです。
具体的に学べるアクションとしては、
- 自社ECだけの独自商品やセット商品をつくる
- 定期的な連絡と情報共有を重視する
- 協力キャンペーンや共同PRを検討する
これらを実践すると、卸先の視点では「ただネット直販を始めた」という受け身の捉え方ではなく、「一緒に新しい販路を開拓するパートナー」として認識してくれる可能性が高まるでしょう。
リスクと注意点
卸先との関係を保ちながら自社ECを立ち上げるには、いくつかのリスクと注意点が伴います。特に、経営資源が限られる中小企業では、一度に多くの投資を行うとキャッシュフローが厳しくなるケースがあります。自社EC用の在庫確保やシステム導入、スタッフ増員などの初期コストをしっかり試算してから始めることが大切です。
また、取り扱う商材によっては自社ECでの販売が向いていない場合もあります。例えば、サイズやカラーのバリエーションが非常に多く、返品リスクが高い商材などは、ECでの運用に相応のコストとノウハウが必要です。そうした場合は、すぐにフルラインナップを始めるのではなく、テスト販売からスタートするのも一つの手です。
さらに、法的な側面でも契約書の見直しや知的財産の権利関係など、注意が必要です。特に卸先との取引基本契約の中に「オンライン直販」についての条項が含まれていない場合、新たに覚書や追加契約を結ぶことでトラブルを防げます。コストとリスクを慎重に見極めながら、無理のない規模で少しずつ拡大していくことが理想的です。
まとめ
卸先との関係を大切に保ちつつ、自社ECを立ち上げるためには以下のポイントが重要です。
- 目的の明確化: 自社ECを「新規顧客開拓」や「ブランディング強化」の場として位置づける
- 価格設定の工夫: 卸先との価格競合を避け、セット販売や限定商品で差別化
- 在庫管理と受注フローの整備: 複数チャネルの在庫を一元管理し、受注から配送までの流れを最適化する
- コミュニケーション重視: 卸先への説明と情報共有を徹底し、Win-Winの姿勢をアピール
- プロモーション施策の最適化: 卸先を含む流通全体を視野に入れたSNS運用や広告出稿を行う
- リスク管理: 小規模テストから始め、資金繰りや法的リスクにも配慮しながら拡大する
自社ECの立ち上げは決して簡単ではありませんが、適切な設計とコミュニケーションによって、卸先との関係を強化しながら新たな販路を築くことができます。長期的な視点で双方がメリットを得られるよう、慎重かつ積極的に取り組んでみてください。